叛逆はんぎゃく)” の例文
何事かを自らなし得ると思う時、それだけ自然へ叛逆はんぎゃくする。自然が与える美、それを素直に受ける者に、始めてよき作が許されるであろう。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
天文二十三年甲寅こういん八月、筑摩織部正則重は、領内の城主横輪豊前守よこわぶぜんのかみ叛逆はんぎゃくの報を聞いて、自ら七千騎の兵に将として月形つきがたの城を攻略に向った。
勝頼の大軍が、進退に迷って、単なる面目のためにうごいて来たのとちがって、徳川勢は、内部の叛逆はんぎゃくどもを血祭りとして
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「これが拙者の悪い癖かも知れぬ。拙者は物ごとを捻くれて見るかも知れぬ。しかし大弐どのの説は叛逆はんぎゃくの罪に当るぞ」
夜明けの辻 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
一つの作品は発見創造と同時に限界をもたらすから、作家はそこにふみとどまってはいられず、不満と自己叛逆はんぎゃくを起す。
故に彼等の詩の中では、常にゆがんだもの、残酷なもの、意地あしきものがいて、情緒への叛逆はんぎゃく的なきばをむいている。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
私は大義名分の上から見て、吉野朝の悲運を導いた、尊氏の叛逆はんぎゃくを認容できないが、だからといって、吉野の廷臣がすべて英雄になったとはいいたくない。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
翻訳は常に叛逆はんぎゃくであって、明朝みんちょうの一作家の言のごとく、よくいったところでただにしきの裏を見るに過ぎぬ。縦横の糸は皆あるが色彩、意匠の精妙は見られない。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
僕と菊代さんは、お前たちに叛逆はんぎゃくをたくらんだが、お前たちは意外に強くて、僕たちは惨敗を喫したんだ。押せども、引けども、お前たちは、びくともしねえ。
春の枯葉 (新字新仮名) / 太宰治(著)
私はもうみつきません。私の歯は磨滅まめつしています。芝居へ行きましても、私はもう無邪気な観客のように、役者をののしったり叛逆はんぎゃく者を侮辱したりはいたしません。
女中や出入でいりのものには三十代に見える。日外いつぞや夫人を操さんの姉さんと思い違えた運転手は多大のチップに有りついた。それほどお若い大奥さんを婆と呼ぶのは叛逆はんぎゃくに等しい。
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
絶えず何かを求め探している葉子の心は、すでに娘の預り主の師匠にひそかに叛逆はんぎゃくを企てているに違いなかったが、庸三の曇った頭脳では、そこまでの見透かしのつくはずもなかった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
どういう理由わけで翻訳されなかったかというに、いったい翻訳というものは、詩人のいうごとく、原語に対する一種の叛逆はんぎゃくです。よくいったところで、ただにしきの裏を見るに過ぎないのです。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
私ごとき者が全訳を企てたのは全く叛逆はんぎゃくである。
茶の本:02 訳者のことば (新字新仮名) / 村岡博(著)
「——あのしれ者は小森を斬り落合を傷つけたうえに、徒党を集めて己れの屋敷にたてこもったというではないか、これは謀反だ、明らかに叛逆はんぎゃくだぞ」
初夜 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
作為への執着も、機械への過信も、自然に対する無益な叛逆はんぎゃくに過ぎない。美は自然を征御せいぎょする時にあるのではなく、自然に忠順なる時にあるのである。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
光秀の叛逆はんぎゃくがまったくの暴挙で、長年にわたる計画のもとに行われたものでないことは、前夜の事情と、作戦の踏襲とうしゅうによってこれだけは明確に断言してよい。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そしてあらゆる叙事詩エピック、及び叙事詩的エピカルなものの本質は、この種の深刻なる悪魔的叛逆はんぎゃく感に基調している。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
葉子の事件に関して長男の態度にも反感をもっていた二男の、家庭の内部からの火の手のあがり初めて来た叛逆はんぎゃくとの十字砲火を浴びながら、彼の社会的信用に大抵見透みとおしをつけながらも
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
あたかも叛逆はんぎゃく者のごとくに、足音をぬすんで後ろより来て、われを突き刺した。汝はわれに向かって、汝の猛犬を、情熱を、解き放した。汝の知るとおりわれに力なく、闘うことを得なかった。
やがて、いつもそうなのだが、じんは母の手をのがれて外へとびだし、そこでたちまち叛逆はんぎゃく狼火のろしをあげる。
季節のない街 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
本能寺のほりに、狂兵の矢石しせきが飛び、叛逆はんぎゃくの猛炎が、一夜の空をがしてから後には——世人はあげて今さらのように、事前の光秀のこころを——その変心の時と動機を
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
然るに当時の人間主義者ヒューマニスト等は、初めから基督教に叛逆はんぎゃくして立っていた為、この「芸術のための芸術」という語は、それ自ら反基督教、反教会主義の異端思想ヘドニズムを含蓄していた。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
もちろんそれは清川が、完全に家庭に叛逆はんぎゃくしたと見られる場合のことであった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
だが機械主義に転じる時、それが酵す醜悪について、なんの弁護があるであろう。手工は機械を排してはいない。しかし機械が手工を退けてしまった。この叛逆はんぎゃくから機械の罪業は開始せられた。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
他のあらゆる国民を憎み——(ごく温和な時には軽蔑けいべつするだけで満足していたが)——自国民のうちにおいてさえ、自分らと同じ考えをしない人々を、外国人だの変節漢だの叛逆はんぎゃく者だのと呼んでいた。
主君に対する叛逆はんぎゃくならともかく、一ノ関は伊達家から出て、名目は直参大名である。
それをこんな、あられもない町屋敷へ、妻にと、下賜されて来たことを考えてみたがよい。そのわたくしに、手をあげたり、ずかしめたりすることは、取りも直さず、上皇さまへの叛逆はんぎゃくです。
柳営の春は和光わこうにみち、天下はなぎのごとく治まっていると思いのほか、いつか西都せいとに皇学の義が盛んに唱えられ、公卿くげと西国大名の間に、恐るべき叛逆はんぎゃくの密謀が着々として進んでいるというのは
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(この叛逆はんぎゃくに負けては)と、強く意思してみる。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)