単簡たんかん)” の例文
旧字:單簡
「やっぱり物質的の必要かららしいです。先が何でもよほど派出はでうちなんで、叔母さんの方でもそう単簡たんかんに済まされないんでしょう」
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
桂川かつらがわの岸伝いに行くといくらでも咲いていると云うコスモスも時々病室を照らした。コスモスはすべてのうちで最も単簡たんかんでかつ長く持った。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
時々に落ちないところが出てくると、私は女に向って短かい質問をかけた。女は単簡たんかんにまた私の納得なっとくできるように答をした。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
説明はなるべく単簡たんかんな方がろしいから、ここに一つの物でも、人でもあるとする。この物か人は与えられたものとします。
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自分の単簡たんかんの説明が終ると、彼はうれしくも悲しくもない常の来客に応接するような態度で「まあそこへおかけ」と云った。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
父はその男をこう荒っぽく叙述じょじゅつしておいて、その男とその家の召使とがある関係に陥入おちいった因果いんがをごく単簡たんかんに物語った。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この洋杖は竹の根の方を曲げてにしたきわめて単簡たんかんのものだが、ただへびを彫ってあるところが普通のつえと違っていた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「詩人かも知れないが随分妙な男ですね」と主人が云うと、迷亭が「馬鹿だよ」と単簡たんかんに送籍君を打ち留めた。東風君はこれだけではまだ弁じ足りない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
机は白木しらき三宝さんぼうを大きくしたくらいな単簡たんかんなもので、インキつぼと粗末な筆硯ひっけんのほかには何物をもせておらぬ。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これも分りやすいためになるべく単簡たんかんに通俗な例で説明致します。普通用談の際は無論雑談の際でも、我々は滅多めったに主観的な叙述を用いてはいないと思っています。
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
用事はもとより単簡たんかんであった。けれども細君の諾否だくひだけですぐ決定されべき性質のものではなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「こうやって思い切って入院した方が、今考えて見るとやっぱり得策だったんでしょうか」などと聞くたびに院長は「ええまあそうです」ぐらいな単簡たんかんな返答をした。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
単簡たんかんなる猿股を発明するのに十年の長日月をついやしたのはいささかな感もあるが、それは今日から古代にさかのぼって身を蒙昧もうまいの世界に置いて断定した結論と云うもので
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「おや御前いつ束髪そくはつったの」小間使はほっと一息ついて「今日こんにち」となるべく単簡たんかんな挨拶をする。「生意気だねえ、小間使の癖に」と第四の剣突を別方面から食わす。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
代助はすべてを語るに約一時間余を費やした。その間に平岡から四遍程極めて単簡たんかんな質問を受けた。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「ええ」を引き込めるわけに行かなければ「ええ」をかさなければならん。「ええ」とは単簡たんかんな二文字であるが滅多めったに使うものでない、これを活かすにはよほど骨が折れる。
琴のそら音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自然の二字をもって単簡たんかんに律し去らないで、どのくらいの異分子が、どのくらいの割合で交ったものかを説明するようにしたら今日のへいが救われるかも知れないと思います。
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
けれどもこう単簡たんかんに聞かれたときに、どうしてこの複雑な経過を、一言いちげんで答え得るだろうと思うと、返事は容易に口へは出なかった。兄は封筒の中から、手紙を取り出した。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「いこう」と単簡たんかんに降参する。彼が音楽会へ臨むのは生れてから、これが始めてである。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
純文学と云えばはなはだ単簡たんかんである。しかしその内容を論ずれば千差万別である。
作物の批評 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
先生は単簡たんかんにただ「ええいらっしゃい」といっただけであった。その時分の私は先生とよほど懇意になったつもりでいたので、先生からもう少しこまやかな言葉を予期してかかったのである。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この巡査は丸帯も腹合はらあわせもいっこう知らない。すこぶる単簡たんかんな面白い巡査である。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
画は一輪花瓶いちりんざしした東菊あずまぎくで、図柄ずがらとしてはきわめて単簡たんかんな者である。
子規の画 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
三度目にはこっちからとうとうその理由を反問しなければならなくなりました。彼らの主意は単簡たんかんでした。早くよめもらってここの家へ帰って来て、亡くなった父の後を相続しろというだけなのです。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私は単簡たんかんに礼を述べた。母はまだへやの入口に立っていた。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)