さも)” の例文
が、画かき根性を脱していて、画料をむさぼるようなさもしい心が微塵もなかった代りに、製作慾もまた薄かったようだ。
それと同時に、何がなしに此の老人が、頭の二つや三つ擲つてやつてもい程さもしい人間のやうに思はれて来た。
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
こうどうも昔ばかりを憶出していた日には、内職の邪魔になるばかりで、さもしいようだが、ぜににならぬ。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「それじゃ云って見ろ。証文がなくなれば返えさなくても好いのだが、俺はお前見たいなさもしい人間と違って、そんな事は嫌いだ。払ってやるから、金高を云え」
罠に掛った人 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
私はあの蔵元屋の台所ならモウ二十年以来このかたの古狃染なじみで御座いますが……毎日お余りを貰いに参りますので……さもしい事を申上るようで御座いますが、蔵元屋の前の御寮ごりょんさんの時は
こゝろ夜叉やしゃ! うつくしい虐君ぎゃくゝんぢゃ! はとはねからすぢゃ! 狼根性おほかみこんじゃう仔羊こひつじぢゃ! 神々かう/″\しうてこゝろさもしい! 外面うはべとは裏表うらうへ! いやしい聖僧ひじり氣高けたか惡黨あくたう! おゝ、造化主ざうくわしゅ
うらぼん餘計よけいにしみてこえるのと、さもしいけれども、おなじであらう。
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さもしい事を言うようだが、其日の弁当のさいは母の手製の鰹節かつぶしでんぶで、私も好きだが、ポチの大好きな物だったから、我慢して半分以上残したのが、チャンと弁当箱に入っている。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
決して御礼を貰おうなどいうさもしい御心で御助け下さったのでは御座いませぬ
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
文学の毒にあてられた者は必ずついに自分も指を文学に染めねば止まぬ。私達が即ち然うであった。先ず友が何か下らぬ物を書いて私に誇示ひけらかした。すると私も直ぐさもしい負ぬ気を出して短篇を書いた。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)