剰銭つり)” の例文
旧字:剩錢
照子はくすくす、「五十五銭にいたしておきます、一閑張いっかんばりのお机にはうつりがうございますよ。一円ならお剰銭つりをあげましょうか。」
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
剰銭つりはいらない。」と百円札五枚を投出すと共に、男は女の腕をひつ掴むやうにして出て行つた。外は真暗で風が吹いてゐる。
にぎり飯 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「然うとも。そうして朝鮮へ出稼ぎと来ている。有難い仕合せさ。これじゃ無料で乗って少しお剰銭つりを貰っても余りい心持はしないね」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
だから親身の母子おやこの情の出ないのは当り前だ、それを無理に出そうとすれば、自然、どこかからお剰銭つり反動しかえし)が出て来るにきまっている。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「おれも二本差しているのだ。まだ、飲み逃げするほど落ちぶれちゃあいねえ。——酒の代にゃあ過ぎ物だが、取っておけ、剰銭つりはくれてやるから」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
基点に当る停車場ステーションは、彼の休んだ茶店のすぐ前にあった。彼は電車よりも狭いその車を眼の前に見つつ、下女から支度料の剰銭つりを受取ってすぐ表へ出た。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一銭に四きれというのを、私は六片食って、何の足しにということはなしに二銭銅貨で五厘の剰銭つりを取った。
世間師 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
しばらくそのままにして居る傍から、どうぞ御近日と今日は「どうぞ」を判然はっきり云われて、それを汐に立って婢があなたと呼んだは、その剰銭つりを請取へ包んで呉れたので
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
又私の了簡では、元々ほんの酔興で二人の世話を為るのだから、究竟つまりそちらの身さへ立つたら、それで私の念は届いたので、その念が届いたら、もう剰銭つりもらはうとは思はんのだ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
二朱にしゅかねをお絹から貰って、お此は又おどろいた。お絹は剰銭つりはいらないと言った。
両国の秋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
剰銭つりはいらない。」と百円札五枚を投出すと共に、男は女の腕をひっ掴むようにして出て行った。外は真暗で風が吹いている。
にぎり飯 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
何にも云わないで、ぐんぐん引張って、かぶりをるから、大方、剰銭つり寄越よこそうというんでしょうと思って、留りますとね。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
誰れも知らぬことに顔赭らめ、イヤこれだとその下にあった樺色の表紙を、あわてゝ何のほんとも知らず指さすと、本屋は難有うと云って、二銭の剰銭つりとそのほんとを取って渡した。
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
「正直なやつではある。剰銭つりはいらんよ。しゃくの小女にくれてやったのだ。取っておけ」
品物を出口へ廻すように頼んでお剰銭つりを待っている間に
好人物 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
大分その辺を歩いた後、わたくしは郵便箱の立っている路地口の煙草屋で、煙草を買い、五円札の剰銭つりを待っていた時である。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ボオイが剰銭つりを持って来て、夫人の手に渡すのを見て、大照れの主税は、口をつけたばかりの珈琲もそのまま、立ったなりの腰も掛けずに
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
請取と剰銭つりとを盆に載て出され、いつぞや同宿の相原が、どこかで剰銭つりは入らないよと云たのを憶い出し、わずか六銭という剰銭つりを、この淀文へ残すもおかしく取るもおかしく
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
「はて、剰銭つりがないが。……旦那様、もっと細かいお鳥目で下さいませ」
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夫人はさすが年紀としの功、こは癈疾かったいと棒ちぎり、身分に障ると分別して、素直に剰銭つりださるれば、丁寧にかずを検し、繻子しゅすの帯にきゅっとはさみぬ。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「面倒だ——剰銭つりは——こう亭主、剰銭の分だけ、追い足しに」
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何でも一大事のように返した剰銭つりなんですもの、落したのを知っては追っかけて来かねやしません。銑さん、まあ、何てこッてしょう、どうした婆さんでしょうねえ。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
剰銭つりはいらぬ、茶代に取っておくがいい」
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これでもまだまだ見えをする気か、五銭の白銅一個ひとつ渡して見返りもせぬ心の内、今度呼んだら剰銭つりは要らぬと、腹を見せる目的つもりところ、何がさて如才なく令嬢は素知らぬ顔なり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今僕に話すようじゃ、酸いも、甘いも、知っていて、旦那を三銭さんもんとも思ってやしない。僕が二厘の湯銭の剰銭つりで、(ちょいとこさ)を追返したよりは、なおひどく安くしてるんだ。
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ああ、剰銭つりと一所に遺失おとしたんだ。叔母さんどの辺?」
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)