兇漢きょうかん)” の例文
むかしギリシアの哲学者ソクラテスのもとに、ある兇漢きょうかんが来て、さんざん悪口を言って帰った。かたわらに聞いておった門弟が、哲学者に向かって
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
親のに至りて家道かどうにわかおとろえ、婦人は当地の慣習とて、ある紳士の外妾となりしに、その紳士は太く短こう世を渡らんと心掛くる強盗の兇漢きょうかんなりしかば
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
それに、二人の兇漢きょうかんがいかに食物に困っているかもよくわかる。捜査隊はいっそう緊張して、じりじりと網口を縮めていった。が、なにぶんにも地形が悪い。
チャアリイは何処にいる (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
“——欧弗同盟の元首ビスマーク将軍は、昨夜、会議からの帰途、ヒトラー街において、七名の兇漢きょうかんに襲撃され、電磁弾でんじだんをなげつけられて将軍は重傷を負った。
地球要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
かれはふいに耳をたって、四、五けんばかりかけだしてながめると、いましも、ひとりの兇漢きょうかんが、皎々こうこうたる白刃はくじんをふりかぶって、ッぽけな小僧こぞうをまッ二つと斬りかけている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
マクベスは妖婆ようば、毒婦、兇漢きょうかんの行為動作を刻意こくいに描写した悲劇である。読んで冒頭より門番の滑稽こっけいに至って冥々めいめいの際読者の心に生ずる唯一の惰性は怖と云う一字に帰着してしまう。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
感心に女には手を掛けないようだと話がきまると人は別にまた山賊さんぞくの頭領という類の兇漢きょうかんを描き出して、とにかくにこの頻々ひんぴんたる人間失踪しっそうの不思議を、説明せずにはおられないようであった。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
わけを聞いてみると、三つの時に兇漢きょうかんに刺されて傷があるからだといった。
怪譚小説の話 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
きょうでは暴民の凌辱りょうじょくを受けようとし、宋では姦臣かんしん迫害はくがいい、ではまた兇漢きょうかん襲撃しゅうげきを受ける。諸侯の敬遠と御用ごよう学者の嫉視と政治家連の排斥はいせきとが、孔子を待ち受けていたもののすべてである。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
すなわち春琴が兇漢きょうかんおそわれた夜佐助はいつものように春琴のねやの次の間にねむっていたが物音を聞いて眼を覚ますと有明行燈ありあけあんどんの灯が消えていくらな中にうめきごえがする佐助は驚いてび起きまず灯を
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
一郎はその父の書斎で兇漢きょうかんに襲われたのである。
暗黒星 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
自動車の前に立ちふさがった数名の兇漢きょうかんがある。
人造人間殺害事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)