“元手(もとで)” の例文
忘れもしない二年前(ぜん)の冬、ちょうどある大雪の夜(よる)です。わたしは博奕(ばくち)の元手(もとで)が欲しさに、父の本宅へ忍びこみました。
報恩記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
元手(もとで)かまはずの鈴も相當賣れますから、何だつたら、此儘足を洗つて、鈴賣りになるのも惡くない——といつたやうな暢氣(のんき)な氣持になつて居りました。
そうだろう、お前の銀貨は、一つが二つになった。えらい金満家(きんまんか)だ。終りよければ総(すべ)てよしだがね、いっといてあげるが、お金はしあわせの元手(もとで)じゃないよ。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
元手(もとで)に一商賣に有附今の御恩を報(はう)ぜんと口から出次第申しけるを小兵衞は打聞此後は豫て申合せし通り必ず我等(われら)方へ參られ候事無用なりと申せしかば三吉は天窓(あたま)を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
東京市の貧弱なる膨脹に付(つ)け込(こ)んで、最低度の資本家が、なけなしの元手(もとで)を二割乃至三割の高利(こうり)に廻(まは)さうと目論(もくろん)で、あたぢけなく拵(こしら)へ上(あ)げた、生存競争の記念(かたみ)である。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
夫(それ)よりは氣(き)を取直(とりなほ)して稼業(かげふ)に精(せい)を出(だ)して少(すこ)しの元手(もとで)も拵(こしら)へるやうに心(こゝろ)がけて下(くだ)され、お前(まへ)に弱(よは)られては私(わたし)も此子(このこ)も何(ど)うする事(こと)もならで、夫(それ)こそ路頭(ろたう)に迷(まよ)はねば成(な)りませぬ
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
あんな事(こと)を云(い)つて、お前(まへ)さん又(また)おだましだよ。筑波(つくば)へお詣(まゐ)りぢやありますまい。博奕(ばくち)の元手(もとで)か、然(さ)うでなければ、瓜井戸(うりゐど)の誰(だれ)さんか、意氣(いき)な女郎衆(ぢよらうしう)の顏(かほ)を見(み)においでなんだよ。
一席話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
彼の元手(もとで)は、背の壊れた椅子を切り縮めて拵えた木製の床几(しょうぎ)一つだけであった。
空ッ脛だけが元手(もとで)の朦朧(もうろう)駕籠屋。
何度もこういう押問答を繰返した後で、とうとう私はその友人の言葉通り、テエブルの上の金貨を元手(もとで)に、どうしても骨牌(かるた)を闘わせなければならない羽目(はめ)に立ち至りました。
魔術 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)