余残なごり)” の例文
一つ、別に、この畷を挟んで、大なる潟がいたように、刈田を沈め、かいつぶりを浮かせたのは一昨日のの暴風雨の余残なごりと聞いた。
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
仰向あおむい蒼空あおぞらには、余残なごりの色も何時しか消えせて、今は一面の青海原、星さえ所斑ところまだらきらめでてんと交睫まばたきをするような真似まねをしている。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
茶屋揚屋あげやの軒に余って、土足の泥波を店へどっと……津波の余残なごりは太左衛門橋、戒橋えびすばし相生橋あいおいばしあふれかかり、畳屋町、笠屋町、玉屋町を横筋に渦巻き落ちる。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今日は十一月四日、打続いての快晴で空は余残なごりなく晴渡ッてはいるが、憂愁うれいある身の心は曇る。文三は朝から一室ひとま垂籠たれこめて、独り屈托くったくこうべましていた。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
それは冷たかったけれども、小春凪こはるなぎの日の余残なごりに、薄月さえ朧々おぼろおぼろと底の暖いと思ったが、道頓堀で小休みして、やがて太左衛門橋を練込む頃から、真暗まっくらになったのである。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この時日は既に万家ばんかむねに没しても、余残なごりの影をとどめて、西の半天を薄紅梅にそめた。顧みて東方とうぼうの半天を眺むれば、淡々あっさりとあがった水色、諦視ながめつめたら宵星よいぼしの一つ二つはほじり出せそうな空合そらあい
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
しかいわがくれの裏に、どうどうと落ちたぎる水の音のすさまじく響くのは、大樋おおどいを伏せて二重に城の用水を引いた、敵に対する要害で、地下を城の内濠うちぼりそそぐと聞く、戦国の余残なごりださうである。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
しかもいわがくれの裏に、どうどうと落ちたぎる水の音のすさまじく響くのは、大樋おおどいを伏せて二重に城の用水を引いた、敵に対する要害で、地下を城の内濠うちぼりそそぐと聞く、戦国の余残なごりだそうである。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)