人物ひと)” の例文
『なりませんとも。』と白髯の議員も笑つて、『どうして、彼丈あれだけの決心をするといふのは容易ぢや無い。しかし猪子のやうな人物ひとは特別だ。』
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
美満寿屋というのは表通の上町かみまちに出来ている飲食店であったが、主人というのが元を正せば洋服を着た方の種類の人物ひと
温室の恋 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
朕薄徳を以て、恭しく大位を承け、志は兼済あはせすくふに在りて、いそしみて人物ひとづ。率土の浜は已に仁恕にうるほふと雖も、而も普天之下あめのしたは未だ法恩を浴びず。
君臣相念 (新字旧仮名) / 亀井勝一郎(著)
……今日では、もはや、武家、町人と区別けじめを立てる時節でもなく、町家でも手堅い家であり、また気立ての好い人物ひとならば、綾を何処どこへでもお世話をお願いしたい。
こヽろざしのふみふうらねど御覽ごらんぜよ此通このとほりと、手文庫てぶんこまことせしが、さてわれゆゑけばうれしきかかなしきか、行末ゆくすゑいかに御立身ごりつしんなされて如何樣どのやうなお人物ひとたまふおにや
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
私はおまえさんはきっとりっぱな人物ひとになれるとおもうから、ぜひりっぱな人物にしてみたくってたまらないんだもの。後生だから早く勉強して、りっぱな人物になってくださいよう
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
叔母を送つて好摩の停車場ステイシヨンに行つた下男と下女は、新しい一人の人物ひとを小川家に導いて帰つた。それは外ではない、信之の次男、静子とは一歳劣ひとつおとりの弟の、志郎といふ士官候補生だ。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
木魚もくぎょの顔の老爺おじいさんが、あの額の上に丁字髷ちょんまげをのせて、短い体に黒ちりめんの羽織を着て、大小をさしていた姿も滑稽こっけいであったろうが、そういうまた老妻おばあさんも美事な出来栄できばえ人物ひとだった。
和尚さんもね、彼病気さへ無ければ、実に気分の優しい、好い人物ひとなんです——申分の無い人物なんです——いえ、私は今だつても和尚さんを信じて居るんですよ。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
和泉守の狂歌であるがこんな洒落気しゃれけもあった人物ひとで、そうかと思うと何かの都合で林大学頭が休講した際には代わって経書を講じたというから学問の深さも推察される。
大鵬のゆくえ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
榎本武揚や勝安房のやうなすぐれた人物ひとでもなかつた彼等は、すつかり打ちのめされて、消耗しきつてしまつた維新後の廿七年を、今こそと腕をまくりあげて來は來ても、窮乏陋巷にある彼等は
日本橋あたり (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
旦那もね、お前さんの知ってる通り、好い人物ひとなんですよ。気分は温厚すなおですし、奉公人にまで優しくて……それにお前さん、この節は非常な勉強で、人望はますます集って来ましたサ。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
いやいやわしは偉い人でもすぐれた人間でもありませんよ。わしは平凡な人間です。しかし俺は真実ほんとを語りそして真実ほんとを行っています。あるいはこの点が普通の人物ひとと違っている点かもしれませんな。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あの人物ひとが赤面するなぞとは、ちよつと思へないであらうが、あんなに顏を赤らめる人はなかつた。だが、顎をささへて、輕く首を左右へ動かすか、または輕くうなづく時は機嫌がいいのらしかつた。
三十五氏 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
こう思いながら見やるのであったが、それぞと思われる人物ひとはいない。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)