両肘りょうひじ)” の例文
旧字:兩肘
日華洋行にっかようこうの主人陳彩ちんさいは、机に背広の両肘りょうひじもたせて、火の消えた葉巻はまきくわえたまま、今日もうずたかい商用書類に、繁忙な眼をさらしていた。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
彼女はひざの上に両肘りょうひじもたせて、あごを支えながらじいっと、湖へひとみを投じています。彼女に膝を並べて、私も言葉もなく、湖をながめていました。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
ラスコーリニコフは真っ直ぐに橋まで行って、そのまんなかの欄干らんかん近くたたずんだ。そして両肘りょうひじをその上にもたせ、遠くかなたをながめ始めた。
一壜の液体をのみすと、彼は前にあるくくりづけの蜜柑箱のように四角な卓子テーブルの上に両肘りょうひじをついてガバとおもてを伏せた。
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)
寝ている宇野浩二の真似でもしてみようかと思うけれども、ふとっているので、すぐ、両肘りょうひじがしびれて来るに違いない。夕飯ごろの下宿は賑やかだ。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
男はこう云って、ゆるやかに二三歩前へ歩き出して、下の方を水に洗われている柵の、細い木の上に両肘りょうひじいた。そして長い間きらめく水のおもてを見ていた。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
とそれから東屋氏は、そばの椅子へしずかに腰を下ろし、両膝りょうひざ両肘りょうひじをのせて指を前に組み合せ、ためらうように首をひねりながら、ボツリボツリと切り出した。
灯台鬼 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
女の声は蝋燭ろうそくの燈のめいって往くようなとろとろした柔かな気もちになって聞えて来た。省三はテーブル両肘りょうひじもたせて寄りかかりながら何か云ったが聞えなかった。
水郷異聞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
腰をかがめて歩けると思ったのは、ほんのすこしの間だけで、すぐ、あたりが狭くなり、両肘りょうひじでようやくはって行けるくらいなところで行きづまっていた——。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
小野さんは両肘りょうひじを鉄の手擦てすりうしろから持たして、山羊仔キッドの靴を心持前へ出した。煙草をくわえたまま、眼鏡越に爪先の飾をながめている。遅日ちじつ影長くして光を惜まず。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
女は傘を無造作にソファの上に投げて、さも疲れたようにソファへ腰を落して、卓に両肘りょうひじをついて、だまって渡辺の顔を見ている。渡辺は卓のそばへ椅子を引き寄せてすわった。
普請中 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
脇息を前に置いて、抱きこむように、のめるように両肘りょうひじを突いている。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「やるか、おい。」と津田氏は大あぐらに両肘りょうひじを突張ってわめいた。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
和田は両肘りょうひじをついたまま、ぶっきらぼうにいい放った。彼の顔は見渡した所、一座の誰よりも日に焼けている。目鼻立ちも甚だ都会じみていない。
一夕話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ナイフの持ち方、指の運び方、両肘りょうひじひざとすれすれにして、長いたもとを外へ開いている具合、ことごとくその時の模写であったうちに、ただ一つ違うところのある点に津田は気がついた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ラスコーリニコフはペンを返したが、立ち上がって出て行こうともせず、両肘りょうひじをテーブルの上について、両手で頭を引っつかんだ。まるで脳天へくぎでも打ち込まれているような感じだった。
そしていつでも廻されるように両肘りょうひじを左右一杯に開いた。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
両肘りょうひじを膝に、前かがみに首を突き出す玄心斎。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)