一走ひとはし)” の例文
手前と相弟子あいでし笠亭仙果りゅうていせんかがお供を致しまして御屋敷へ上っておりますから、私は今のうち一走ひとはしり御様子を見て参ろうかと思っていた処で御座ります。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「いやいや、この夜更よふけにそんな御苦労ごくろうをかけてはすみません。なんならわたしが一走ひとはしり行ってってましょう。」
安達が原 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
今日きょうは、うしいていないから世話せわがない。おれ一人ひとりだから、のろのろある必要ひつようはない。いくらでもはやあるいてみせる。三や四みちは、一走ひとはしりにはしってみせる。
百姓の夢 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「そいつは事だゝ。すぐにお医者さア呼ばらなくちゃならねえだ。おら、町まで一走ひとはしりしてべい」
青服の男 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
一走ひとはしり行つて来ようかと考へたが、あたまおもく痛むやうなので、次の阿母さんの部屋の八畳のへ来て障子を明放あけはなして、箪笥の前で横に成つた。暑い日だ、そよと吹く風も無い。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
「小林君は、ぼくが助けだした。そして、応援軍をよぶために、いま一走ひとはしり、つかいに行って、帰ったところだ。四人の少年は、やがて、その応援軍が来て、助けだすはずだよ。」
虎の牙 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
車は一走ひとはしりして、燈火ともしびあかるい町の唯有とある家の前に梶棒かじぼうを下ろした。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
知てゐるかととひけるにお政は然樣さやうさ只馬喰町とのみ承まはりましたと申ければ文右衞門は宜々よし/\いづれにも此金子は返さねばならぬ馬喰町へゆき紙屑買かみくづかひの市之丞と聞ば知れぬ事はあるまじあけなば直樣すぐさま一走ひとはしりと文右衞門はあけるを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「なんの、おれが一走ひとはしはしれば、千のやぶも一飛ひととびだ。くやしがっても、おれのあしにかなうものはあるまい。」
物のいわれ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)