一方いつぱう)” の例文
横手よこて桟敷裏さじきうらからなゝめ引幕ひきまく一方いつぱうにさし込む夕陽ゆふひの光が、の進み入る道筋みちすぢだけ、空中にたゞよちり煙草たばこけむりをばあり/\と眼に見せる。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
ふと麥藁むぎわらにはかなら一方いつぱうふしのあるのがります。それが出來できましたら、ほそはう麥藁むぎわらふと麥藁むぎわらけたところへむやうになさい。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
トタンにむかうざまに突出つきだしてこしかした、のこぎりおとにつれて、また時雨しぐれのやうなかすかひゞきが、寂寞せきばくとした巨材きよざい一方いつぱうからきこえた。
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
提灯ちやうちんにもそのいろ多少たせううつかんじがあつた。その提灯ちやうちん一方いつぱうおほきなみき想像さうざうする所爲せゐか、はなはちひさくえた。ひかり地面ぢめんとゞ尺數しやくすうわづかであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
『つい昔話むかしばなし面白おもしろさに申遲まうしおくれたが、じつ早急さつきふなのですよ、今夜こんや十一はん滊船きせん日本くにかへ一方いつぱうなんです。』
近来随筆の流行漸く盛んならんとするに当つて、随筆を論ずる者、必ず一方いつぱう永井荷風ながゐかふう氏や、近松秋江ちかまつしうかう氏を賞揚し、一方に若い人人のそれを嘲笑てうせうする傾向がある。
解嘲 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
それとも一方いつぱうには小説雑誌の気運きうん日増ひましじゆくして来たので、此際このさいなにか発行しやうと金港堂きんこうどう計画けいくわくが有つたのですから、早速さつそく山田やまだ密使みつしむかつたものと見える
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
英吉利いぎりす野暮堅やぼがた真面目まじめ一方いつぱうくになれば、人間にんげん元来ぐわんらい醜悪しうあくなるにおかれずして
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
一方いつぱう廣庭ひろにはかこんだ黒板塀くろいたべいで、向側むかうがは平家ひらや押潰おしつぶれても、一二尺いちにしやく距離きよりはあらう、黒塀くろべい眞俯向まうつむけにすがつた。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
けれどもおやからつたはつた抱一はういつ屏風びやうぶ一方いつぱういて、片方かたはうあたらしいくつおよあたらしい銘仙めいせんならべてかんがへてると、このふたつを交換かうくわんすること如何いかにも突飛とつぴかつ滑稽こつけいであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
わたしは又人間の堪へ得る限りの肉体的苦痛をめてゐる。貧乏のどん底に落ちたこともある。が、一方いつぱうには代議士に選挙されたこともある。土耳古トルコのサルタンの友だちだつたこともある。
澄江堂雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
二十二年の十月発行の廿にぢう七号を終刊しうかんとして、一方いつぱうにはみやこはなが有り、一方いつぱうには大和錦やまとにしきが有つて、いづれもすこぶ強敵きやうてき版元はんもと苦戦くせんのちたふれたのです、しかし、十一月にまた吉岡書籍店よしをかしよじやくてんもよふし
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
一方いつぱう明窓あかりまど障子しやうじがはまつて、其外そのそとたゝみ二疊にでふばかりの、しツくひだたきいけで、金魚きんぎよ緋鯉ひごひるのではない。
怪談女の輪 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
其上そのうへかれ一窓庵いつさうあんかんがへつゞけにかんがへた習慣しふくわんがまだまつたらなかつた。何所どこかにたまごいだ牝鷄めんどりやう心持こゝろもちのこつて、あたま平生へいぜいとほ自由じいうはたらかなかつた。其癖そのくせ一方いつぱうでは坂井さかゐことかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
してをとこみゝと、びんと、すれ/\にかほならべた、一方いつぱう小造こづくりはうではないから、をんな随分ずいぶんたかい。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
よこれて田畝道たんぼみちを、むかふへ、一方いつぱうやますそ片傍かたはら一叢ひとむらもり仕切しきつた真中まんなかが、ぼうひらけて、くさはへ朧月おぼろづきに、くもむらがるやうなおくに、ほこら狐格子きつねがうしれる
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
故々わざ/\ふまでもないが、さかうへ一方いつぱう二七にしちとほりで、一方いつぱうひろまち四谷見附よつやみつけける。
番茶話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ふたつめのたうげ大良だいらからは、岨道そばみち一方いつぱううみ吹放ふきはなたれるのでゆきうすい。くるま敦賀つるがまで、やつつうじた。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
部屋へや四疊よでふけた。薄暗うすぐらたてなが一室いつしつ兩方りやうはうふすま何室どつちほか座敷ざしき出入でいり出來できる。つまおくはうから一方いつぱうふすまけて、一方いつぱうふすまから玄關げんくわん通拔とほりぬけられるのであつた。
怪談女の輪 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
は、自分じぶんのと一間ひとまいて高樓たかどの一方いつぱうの、すみ部屋へやきやくがある、其處そこ障子しやうじ電燈でんとうかげさすのみ。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
空模樣そらもやうあやしくつて、うも、ごろ/\とさうだとおもふと、可恐こはいものたさで、わるいとつた一方いつぱう日光につくわう一方いつぱう甲州かふしう兩方りやうはうを、一時いちじのぞかずにはられないからで。
番茶話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
大手筋おほてすぢ下切おりきつた濠端ほりばたに——まだ明果あけはてない、うみのやうな、山中さんちゆうはら背後うしろにして——朝虹あさにじうろこしたやうに一方いつぱうたにから湧上わきあがむかぎしなる石垣いしがきごしに、天守てんしゆむかつてわめく……
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
あるひかたむき、また俯向うつむき、さてふえあふいでいた、が、やがて、みちなかば、あとへ引返ひきかへしたところで、あらためてつかるごと下駄げたとゞめると、一方いつぱう鎭守ちんじゆやしろまへで、ついたつゑ
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
何故なぜなら、かみは、うしてやませまつて、ながれあをくらいのに、はしさかひ下流かりう一方いつぱうは、たちま豁然くわつぜんとしてかはらひらけて、いはいしもののごとくバツとばしてすごいばかりにひろる。
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
のゝしるか、わらふか、ひと大聲おほごゑひゞいたとおもふと、あの長靴ながぐつなのが、つか/\とすゝんで、半月形はんげつがた講壇かうだんのぼつて、ツと一方いつぱうひらくと、一人ひとりまつすぐにすゝんで、正面しやうめん黒板こくばん白墨チヨオクにして
雪霊続記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
みとめたが、萎々なえ/\として、兩方りやうはう左右さいうから、一人ひとり一方いつぱうひざうへへ、一人ひとり一方いつぱうの、おくれみだれたかたへ、そでおもてをひたとおほうたまゝ、寄縋よりすが抱合いだきあふやうに、俯伏うつぶしにつてなやましげである。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
主人あるじますと、格子戸かうしどそとに、くろで、まんじをおいた薄暗うすぐら提灯ちやうちんひとつ……もつと一方いつぱうには、しゆなにかかいてあつたさうですけれど、それえずに、まんじて……黄色黒きいろぐろい、あだよごれた、だゞつぴろ
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ると、渡過わたりすぐる一方いつぱうきしは、したふか溪河たにがは——すなは摺上川すりかみがは——のがけのぞんで、づらりとならんだ温泉宿やど幾軒々々いくけん/\こと/″\みなうらばかりが……三階さんがいどころでない、五階ごかい七階しちかいに、座敷ざしきかさ
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)