はえ)” の例文
赤い毛氈もうせんを敷いた一艘いっそうの屋形舟は、一行を載せ、夏の川風に吹かれながら、鮎やはえなどの泳いでいる清い流れの錦川をさおさして下った。
御萩と七種粥 (新字新仮名) / 河上肇(著)
別にふなはえしたのを粉にした鮒粉ふなこと云うものを用意してこの二つを半々に混じ大根の葉をったしるくなかなか面倒なものであるそのほか声を
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
三年のすずきが食いつこうと、あるいはまた間違って糸蚯蚓みみずほどのはえ(註に曰く、ハエをハヤというは俗称なり。形鮎に似て鮎に非なる白色の淡水魚なり)
軍用鮫 (新字新仮名) / 海野十三(著)
もう水は引いて、両岸は乾いてゐたが、はえ石斑魚うぐひの泳ぐさまが見えるほど、いつもは澄んでゐる流れが、黄色く濁つて、駸々と底深さうにながれてゐた。
繰舟で往く家 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
木の影が老緑おいみどり色に澄んで、ぴちりぴちりと何か光るけはいがある。こいはえを釣るのだという。あの森にはまた鶴が棲んでいたこともあったとたれかがいった。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
「これは処により、季節によっていろいろ違った呼び方をしますが、ふつうははえ、この腹のところに赤い斑紋ができると赤腹っていうので、これは川魚なんです」
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
父は死ぬ間際は、書斎の窓の外に掘った池へ、書斎の中から釣竿つりざおを差し出して、憂鬱ゆううつな顔をして鮒やはえを一日じゅう釣っていましたよ。関節炎で動けなくなっていました。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
かすかな黄昏の光のなかで、マンは、すぐ眼のまえの流れに一匹のはえのいるのを認めた。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
その後の四段に分れた白木の棚の上には、野の青物あおものが一段に、山の果実と鳥類とが二段目に、はえかじかこいなまずの川の物が三段に、そうして、海の魚と草とは四段の段に並べられた。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
太郎の心には、一瞬の間、幼かった昔の記憶が、——弟といっしょに、五条の橋の下で、はえった昔の記憶が、この炎天に通う微風のように、かなしく、なつかしく、返って来た。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
子規居士の晩年の句に「蝉初メテ鳴クはえ釣る頃の水絵空」というのがある。句の内容は同じではないが、蝉のはじめて鳴く頃の空の感じを捉えた点は、いつにしているといって差支ない。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
はえの子が方々に泳いでいた。
人間繁栄 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
秋は肥たるはえの子を
花守 (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
岩魚もありはえ山女やまめもあった。みな九センチ以上の大きさで、河原に投げあげられると、それらは勢いよくはねながら、水苔みずごけの匂いをあたりにふりまくようであった。
おごそかな渇き (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ふだんから釣の好きな私の甥は、五条の橋の下へ参りまして、河原蓬かわらよもぎの中に腰を下しながら、ここばかりは涼風すずかぜの通うのを幸と、水嵩みかさの減った川に糸を下して、しきりはえを釣って居りました。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
柳河の街の子供はかういう時幽かなシユブタ(方言はえの一種)の腹の閃きにも話にきく生胆取いきぎもとりの青い眼つきを思ひ出し、海辺の黒猫はほゝけ果てた白い穂の限りもなく戦いでゐる枯葦原の中に
水郷柳河 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
谷川やうぐひすないてはえ二寸 水札
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
私の甥はその間中はりにかかったはえも忘れるくらい、聞き耳を立てて居りましたが、この夢の話を聞いている中は、橋の下の涼しさが、何となく肌身にしみて、そう云う御姫様の悲しい御姿を
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
柳河の街の子供はかういふ時幽かなシユブタ(方言、はえの一種)の腹の閃めきにも話にきく生膽取いきゞもとりの青い眼つきを思ひ出し、海邊の黒猫はほゝけ果てた白い穗の限りもなく戰いでいる枯葦原の中に
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
「よくわからないけれど、たぶんはえかなんかだろうね」
おごそかな渇き (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
はえかしら。」
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)