髪結床かみゆいどこ)” の例文
旧字:髮結床
平次が仲間に奉加帳ほうがちょうを廻して足を洗わせ、田圃の髪結床かみゆいどこの株を買って、妹のおくめと二人でささやかに世帯を持っていたのでした。
すでに髪結床かみゆいどこである以上は、御客の権利として、余は鏡に向わなければならん。しかし余はさっきからこの権利を放棄したく考えている。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
当時の髪結床かみゆいどこは、今のようにざっぱりしたものではなく、特にこういう源空寺門前といったような場末では、そりゃ、じじむさいものでした。
と、町奉行与力同心は云うに及ばず、髪結床かみゆいどこに集る町人たちに至るまで、不可解なる怪人物に対する疑問に悩みあった。
くろがね天狗 (新字新仮名) / 海野十三(著)
初夏の夕暮私は四谷通の髪結床かみゆいどこへ行った帰途かえりみちまたは買物にでも出た時、法蔵寺横町ほうぞうじよこちょうだとかあるいは西念寺横町さいねんじよこちょうだとか呼ばれた寺の多い横町へ曲って
丁度其の頃湯島ゆしま切通きりどおしに鋏鍛冶はさみかじ金重かねしげと云う名人がございました。只今は刈込かりこみになりましたが、まだまげの有る時分には髪結床かみゆいどこで使う大きな鋏でございます。
片腕のない髪結床かみゆいどこの亭主は手短かにこの場の仔細を物語ると、道庵は感心したようなかおをして聞いていましたが
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「いいえ、別に好きという程でもなく、いわゆる髪結床かみゆいどこ将棋のお仲間ですがね」と、半七老人は笑った。
半七捕物帳:67 薄雲の碁盤 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そのとき私は同行少年の名を借りて三輪光五郎みわみつごろう(今日は府下目黒のビール会社に居る)と名乗なのって居たが、一寸ちょいと上陸して髪結床かみゆいどこいった所が、床の親仁おやじ喋々ちょうちょう述べて居る
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
(これが私の西洋の小説を読んだ初めで。)であるから貸本屋の常得意の隠居さんや髪結床かみゆいどこの職人や世間普通の小説読者よりは広く読んでいたし、幾分かは眼も肥えていた。
するとかしらの隣にいた髪結床かみゆいどこの親方が、さすがにおかしいと思ったか、平吉の肩へ手をかけて、「旦那、旦那…もし…旦那…旦那」と呼んで見たが、やはり何とも返事がない。
ひょっとこ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
月番つきばん南町奉行所みなみまちぶぎょうしょでも躍気となって、隠密廻おんみつまわり常廻じょうまわりはもとよりのこと、目明めあかし、したぴきを駆りもよおし、髪結床かみゆいどこ、風呂屋、芝居小屋、人集ひとより場、盛り場に抜目なく入り込ませ
平賀源内捕物帳:萩寺の女 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
町角の髪結床かみゆいどこで、ひげをらせていた旅人ていの男がふと、往来を行く彼を見ていた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
髪結床かみゆいどこ」から来たかと思われる。その「床」がわからない。
言葉の不思議 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
三日もひげをあたらないと山賊みたいになるから、自分の剃刀だけは人に使わせないように、町内の髪結床かみゆいどこの親方にがせて、大切にしまい込んであるのさ
下駄の歯があぶみにはさまる。先生はたいへん困っていると、正門前の喜多床きたどこという髪結床かみゆいどこの職人がおおぜい出てきて、おもしろがって笑っていたそうである。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
または辻番附と唱えて市内の辻々や湯屋髪結床かみゆいどこなどへ広告用に懸けて置くだけのことで、芝居見物に行った場合には、別にかの絵本をうけ取ることになっていた。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
助「御免なさいまし、/\、/\、此処こちら髪結床かみゆいどこかね」
いつにもなく羽織を引っかけた平次、それから下谷一円を廻って髪結床かみゆいどこ、湯屋、町医者と、根気よく訪ねました。
阿爺おとっさん。今日ね、久しぶりに髪結床かみゆいどこへ行って、頭を刈って来ました」と右の手で黒いところをで廻す。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
気がついて見返ると、それは此の堤下に髪結床かみゆいどこの店を出している甚五郎という男であった。
半七捕物帳:43 柳原堤の女 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
髪結床かみゆいどこの株を持っていまして、それから毎月三ほど揚がるとかいうことで、そのほかに叔父の方から母の小遣いとして、一分いちぶずつ仕送ってくれますので、あわせて毎月一両
蜘蛛の夢 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
新年の頭をこしらえようという気になって、宗助そうすけは久し振に髪結床かみゆいどこの敷居をまたいだ。暮のせいか客がだいぶ立て込んでいるので、はさみの音が二三カ所で、同時にちょきちょき鳴った。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
噂はそれからそれへと伝えられて、津の国屋には死霊の祟りがあるということが、単に湯屋髪結床かみゆいどこの噂話ばかりでなく、堅気かたぎ商人あきんどの店先でもまじめにささやかれるようになって来た。
半七捕物帳:16 津の国屋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「もとから髪結床かみゆいどこの親方かね」
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)