驥尾きび)” の例文
おききとどけ下さらば、覚明は、今日をもって、誕生の一歳とおもい、お師の驥尾きびに附いて、大願の道へあゆみたいと存ずるのでござる
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
伯夷はくい叔齊しゆくせいけんなりといへども、(七三)夫子ふうし益〻ますますあらはれ、顏淵がんえん篤學とくがくなりといへども、(七四)驥尾きびしておこなひ益〻ますますあらはる。
下寺町の広沢八助に入門し、校長の驥尾きびに附して、日本橋筋五丁目の裏長屋に住む浄瑠璃本写本師、毛利金助に稽古本を註文したりなどした。
青春の逆説 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
そのうちに私も驥尾きびに附して一二篇新青年誌上へ発表するに至ったが、その自分に前述のO君が或る日のこと私に向って
キビキビした青年紳士 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
それで石井氏も快く進んでこの重任を引受けられ、私も喜んで石井、西村両氏の驥尾きびに附くことを承諾するに致りました。
文化学院の設立について (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
二人は青年時代から同じ境遇に育ちながら、何をやっても被害者の方が一枚うわ手で、犯人はたえずその驥尾きびに付していなければならなかった。
探偵小説の「謎」 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
国木田独歩、島崎藤村、柳田国男、田山花袋、中沢臨川、蒲原有明などという先輩の驥尾きびに付して武林繁雄(無想庵)や私なども、よくその会へ出た。
芝、麻布 (新字新仮名) / 小山内薫(著)
以上偶然読書中に見つけたから安倍君の驥尾きびに付して備忘のためにしるしておくことにした。(昭和十年三月、渋柿)
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
紹介者諸氏の驥尾きびに附して当時シェストフと不安の文学という流行語を口にしない文学愛好者はないようであったが、遂にこの流行は不安に関する修辞学に終った。
今日の文学の展望 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
そは明治三十四年なりしと覚ゆ松下某といふ人やまと新聞社を買取り桜痴居士おうちこじを主筆に迎へしよりその高弟榎本破笠えのもとはりゅう従つて入社しおのれもまた驥尾きびに附しけるなり。
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
大分後輩だから驥尾きびに従う。しかしお師匠さんと同棲している有難さ、補講をして貰える。本気になってやれば、茶道もそう馬鹿にしたものでない。興味が出て来た。
四十不惑 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
この禿ちびたる談理の筆をなげうち、逍遙子が驥尾きびに附いて、記實の事に從ふこと能はずといへども、逍遙子は既に沒却理想を立てたれば、これも既得大理想といふべきものにはあらざるか
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
かういふ篤學諸氏の驥尾きびに附して、僕が一種の哲理を發表するのは、少し大膽過ぎるかも知れないが、僕には僕の思想が發達して來た歴史もあるので、別に憚るまでもなからうと思ふ。
神秘的半獣主義 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
ひさごや瓢やわれ汝を愛す、汝かつて愛すがん氏の賢を、陋巷ろうかうに追随して楽しみを改めず、なんぞ美禄を得て天年を終らざる、天寿命あり汝の力にあらず、功名また驥尾きびに付す、瓢や瓢やわれ汝を愛す
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
驥尾きびに附すと云うことが出来れば、4315
その大志の殿に随身する藤吉郎もまた驥尾きびに附して、洲股すのまたはおろか、やがては中原ちゅうげんへも働きに出るように相成ろう。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小林秀雄の驥尾きびに附して、志賀直哉の原始性を認めるとしても、これは可能性の極限ではなく、むしろ近代以前であり、出発点以前であったという点に
可能性の文学 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
明治四十三年のはじめ森上田両先生慶応義塾大学部文学科刷新の事に参与せらるるやわが身もその驥尾きびに附していささか為す所あらんとしぬ。事既に十年に近き昔とはなれり。
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
その諦観にふさわしく統一された芸の巧さがあるにしても、若い作家たちまでがその驥尾きびに附して各自の芸術の行手にそれを仰ぐとすれば、それは奇怪と云わなければなるまい。
昭和の十四年間 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
ねがわくば新しい思想を尊び新しい活動を実現しようとする進歩主義の人人の驥尾きびに従い、胸の鼓動をそれらの人人の調子と一つにそろえて意義ある自分の生活を続けたいと思っている。
婦人と思想 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
それに、ふと手離すのが惜しくなって、——というのは、私もまた武田さんの驥尾きびに附してその時計を机の上にのせて置きたくて、到頭送らずじまいになってしまった。
四月馬鹿 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
わが御主君といえども、筑前守の天性の大気と、天衣無縫てんいむほうぼうとした人がらにある衆望には、到底、及ばないものがある。時人は滔々とうとうこの人の驥尾きびに付し、時勢は着々この人に次代を
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
下寺町の広沢八助に入門し、校長の相弟子たる光栄に浴していた。なお校長の驥尾きびして、日本橋五丁目の裏長屋に住む浄瑠璃本写本師、毛利金助に稽古本けいこぼんを註文したりなどした。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)