風流みやび)” の例文
なるほど独身者の侘び住いらしく、三間しかない狭い家の内部なかが、荒れ放題に荒れているのさえ、伝二郎には風流みやびに床しく眺められた。
時にかられて涙は胸に片頬笑みしつ、見あぐる軒ば日毎にあるれど、しのぶの露をあはれ風流みやびとうそぶく身は、人しらぬあはれ此中にあり。
暗夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
それからまたそのお雪という娘がどんなに心立てがやさしく、気立てがすなおで、どんなに姿が風流みやび眉目容みめかたちが美しかろうとめちぎッて話された。
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
夫人は示指ひとさしゆびてゝ、みつゝ我顏を打守り、油斷のならぬ事かな、さるいちはやき風流みやびをし給ふにこそ、否々、面をあかめ給ふことかは、君のよはひにては
カピ妻 はて、むすめよ、つぎ木曜日もくえうびあさはやう、あの風流みやびな、立派りっぱ若殿わかとののパリスどのが、セント・ピーターの會堂くわいだうで、めでたう其方そなた花嫁御はなよめごにおやるはずぢゃ。
トタンぶきの、あからさまな、みる影もないバラックになり果てゝは、つみ上げた番重ばんじゅうと、天井から下がった鈴生すずなり烏帽子籠えぼしかごとが、わずかにその風流みやびをみせているだけ
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
かかれば良縁のむなしからざること、ちようとらへんとする蜘蛛くもの糸よりしげしといへども、反顧かへりみだにずして、例の飄然忍びてはゑひの紛れの逸早いつはや風流みやびに慰み、内には無妻主義を主張して
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「済んだらこちらへいらっしゃいな、お茶一つあげましょう。」と風流みやびかがむ柳腰。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
うちうめかれしをお出入でいり槖駝師たくだしそれなるものうけたまはりて、拙郎やつがれ谷中やなか茅屋ぼうおくせきれしみづ風流みやびやかなるはきものから、紅塵千丈こうじんせんぢやう市中まちなかならねばすゞしきかげもすこしはあり
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)