風俗なり)” の例文
その真似まねをなさるわけでもあるまいが、あのお蘭のあまっ子も、夜分になると、潰し島田に赤い手絡といった粋な風俗なりに姿をかえるげな
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
華美はで御生活おくらしのなかに住み慣れて、知らず知らず奥様を見習うように成りましたのです。思えば私は自然と風俗なりをつくりました。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
隻眼隻腕の白衣びゃくえの浪人、うしろに御殿女中くずれのような風俗なりの女が、一人つきそって、浪人が、木枯しのような声できくには
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「だアれ!」と直ぐに声がして、つづいて隣部屋から現われたは、風俗なりで解る、女役者であった。
前記天満焼 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
新「ナニ美男いゝおとこさ、風俗なりは職人しゅですがね、なんでも親方株の息子さんてえ様子ですわ」
お燗はつけるしお酌はできるし、すみにゃ置けなそうだな。お父さんに似ていろんな事を覚えたんだろう。ははははは。あてて見ようか。お茶屋のねえさんにしちゃ髪や風俗なりがハイカラだ。
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「一人で?……もっとも一人でしょうけれど、どんな風俗なりをしていました。」
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
割合に年少とししたな善どんでさえ最早小僧とは言えないように角帯かくおびと前垂掛の御店者おたなものらしい風俗なりも似合って見えるように成って来た。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
こんなことをって袖子そでこ庇護かばうようにする婦人ふじんきゃくなぞがないでもなかったが、しかしとうさんはれなかった。むすめ風俗なりはなるべく清楚せいそに。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
皆角帯、前垂掛で、お店者たなものらしく客を迎えている中で、全くの書生の風俗なりが、巻きつけた兵児帯へこおびが、その玻璃ガラスに映っていた。実に、成っていなかった。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それから赤い襷掛たすきがけに紺足袋穿という風俗なりで、籾の入った箕を頭の上に載せ、風に向ってすこしずつ振い落すと、その度にしいな塵埃ほこりとの混り合った黄な煙を送る女もあった。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
彼の妻——お島はまだ新婚して間もない髪を手拭で包み、紅い色の腰巻などを見せ、土掘りの手伝いには似合わない都会風な風俗なりで、土のついた雑草の根だの石塊いしころなどを運んでいた。
岩石の間 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
あれは独逸ドイツほうから新荷しんにいたばかりだという種々いろいろ玩具おもちゃ一緒いっしょに、あの丸善まるぜんの二かいならべてあったもので、異国いこく子供こども風俗なりながらにあいらしく、格安かくやすで、しかも丈夫じょうぶ出来できていた。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
彼女は、母よりも父を多くうけついだ方で、その風俗なりなぞも嫁入り前の若さとしてはひどく地味づくりであるが、えりのところには娘らしい紅梅の色をのぞかせ、それがまた彼女によく似合って見えた。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)