雨垂あまだ)” の例文
それは畑のまめの木の下や、林のならの木の根もとや、また雨垂あまだれの石のかげなどに、それはそれは上手に可愛かあいらしくつくってあるのです。
カイロ団長 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
もう一おせんはおくむかって、由斎ゆうさいんでた。が、きこえるものは、わずかにといつたわってちる、雨垂あまだれのおとばかりであった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
帽子から雨垂あまだれがぽたりぽたりと落つる頃、五六間先きから、鈴の音がして、黒い中から、馬子まごがふうとあらわれた。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
陳列所ちんれつじよ雨垂あまだおち積重つみかさねてある打製石斧だせいせきふは、かぞへてはぬが、謙遜けんそんして六七千るとはう。精密せいみつ計算けいさんしたら、あるひは一まんちかいかもれぬ。
頭痛がするで遅くなりましたとみんな怠惰なまけられるは必定ひつじょう、その時自分が休んで居れば何と一言云いようなく、仕事が雨垂あまだれ拍子になってできべきものも仕損しそこなう道理
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
雨垂あまだれの音が早くなった。池のこいはどうしているか、それがまた灸には心配なことであった。
赤い着物 (新字新仮名) / 横光利一(著)
屋根の流れを集めたといが、まだ乾きもやらず、大粒な雨垂あまだれをたたくように地面へ落とす。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ビクターだけにしかないものでは、先の『葬送行進曲』を第一に、続いて、『雨垂あまだれのプレリュード』、『バラード(作品四七)』、『夜曲=ヘ長調(作品一五)』などであろう。
豪奢ごうしゃな白木の格天井の真中に、ほう二尺程のいびつな円形を作って、真赤な液体がベットリと滲み渡り、その中程と一方の隅との二ヶ所から、雨垂あまだれの様に、赤いしずくが、ポトリ、ポトリと
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
だが、家のものとしては、年頃でいて、のらくらと夜更よふかしの連続では、愛想をつかす方がもっともと思うと、雨垂あまだれほどに戸も叩けず、すごすご近くの聖天山しょうでんやまで夜を明かすのが例にさえなった。
雨垂あまだれ落ちの所に、妙な影が一列に並んでいる。木とも見えぬ、草では無論ない。感じから云うと岩佐又兵衛いわさまたべえのかいた、おに念仏ねんぶつが、念仏をやめて、踊りを踊っている姿である。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)