鏡餅かがみもち)” の例文
旧字:鏡餠
鏡餅かがみもちの腰を高く、あまり取粉とりこを使わずに色沢のよいものを作ろうとすれば、相応に手腕のある餅搗きを頼まなければならぬ。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
暮につか煤掃すすはきの煤取りから、正月飾る鏡餅かがみもちのお三方さんぼうまで一度に買い調えなきゃならないというものじゃなし、おへッついを据えて、長火鉢を置いて
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
「つきたてのもちさかをころがるものか。いまかたくなってお鏡餅かがみもちになったら、ころがしてやろう。」
物のいわれ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
子供の時分には鏡餅かがみもちを割って汁粉しるこにする日を蔵開というのだと、漫然心得ていたこともあった。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
「驚きましたねえ。この山上の二代目の先祖は楠家くすのきけから養子に来ていますよ。毎年正月には楠公なんこうの肖像を床の間に掛けて、鏡餅かがみもち神酒みきを供えるというじゃありませんか。」
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
晦日みそかになると、狭い部屋のなかには鏡餅かがみもちや飾りわらのようなものが一杯に散らかって、お銀の下駄の音が夜おそくまで家を出たり入ったりしていた。母親も台所でいそいそ働いていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そこの前の大飾りは素張すばらしい鏡餅かがみもちが据えてあった。海老えびもピンとはねていた。
すると、近所の者らしい百姓が、正月の鏡餅かがみもちを上げに来ていた。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
形は主として丸い中高なかだかの、今謂う鏡餅かがみもちのなりに作るので、或いはまたその名をオスガタとも呼んでいる。オスガタは御姿、すなわち色々の物の形という意味かと思われる。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
〆飾しめかざりや根松を買って来たり、神棚かみだなに供えるコマコマした器などを買って来てくれた。帳場の側に八寸ばかりの紅白の鏡餅かがみもちを据えて、それに鎌倉蝦魚かまくらえびや、御幣を飾ってくれたのもお国である。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
家でも正月だけは集まってこれを食べたと見えて、干柿ほしがきかや搗栗かちぐりというような、今はお菓子といわない昔の菓子が、三方折敷さんぼうおしきの上に鏡餅かがみもちと共にかならず積みあげられる。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
一〇五 また世中見よなかみというは、同じく小正月の晩に、いろいろの米にて餅をこしらえて鏡となし、同種の米をぜんの上にたいらに敷き、鏡餅かがみもちをその上に伏せ、なべかぶせ置きて翌朝これを見るなり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
牛や犬・猫・鶏には、もちろん銘々めいめいの年取りがあったのみならず、同じ晩はまた道具の年越と称して、うすますの類まで、一ところに集めて鏡餅かがみもちを供える風が、実際はまだ決してまれでない。