錦葉もみじ)” の例文
真白まっしろすすきの穂か、窓へ散込んだ錦葉もみじ一葉ひとは散際ちりぎわのまだ血も呼吸いきも通うのを、引挟ひっぱさんだのかと思ったのは事実であります。
革鞄の怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
迎うるごとく、送るがごとく、窓にもゆるがごとく見えめた妙義の錦葉もみじと、蒼空あおぞらの雲のちらちらと白いのも、ために、べに白粉おしろいよそおいを助けるがごとくであった。
革鞄の怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
橋袂はしたもとに、こずえは高く向う峰のむら錦葉もみじの中に、朱の五重塔を分け、枝は長く青い浅瀬のながれなびいた、「雪女郎」と名のある柳の大樹を見て、それから橋を渡越した。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
就中なかんずく公孫樹いちょうは黄なり、紅樹、青林、見渡す森は、みな錦葉もみじを含み、散残った柳の緑を、うすくしゃ綾取あやどった中に、層々たる城の天守が、遠山の雪のいただきいてそびえる。
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
海底の琅玕の宮殿に、宝蔵の珠玉金銀が、にじに透いて見えるのに、更科さらしなの秋の月、にしきを染めた木曾の山々は劣りはしない。……峰には、その錦葉もみじを織る竜田姫たつたひめがおいでなんだ。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
(ハオ、イヤア、ハオ、イヤア、)霜夜を且つちる錦葉もみじの音かと、虚空に響いた鼓の掛声。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
八郎はまたさっと眉を曇らせた。もっとも外へ出ると、もう、小川添の錦葉もみじで晴れたが。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
プラットフォームで、真黒まっくろに、うようよと多人数に取巻かれた中に、すっくと立って、山が彩る、目瞼まぶたの紅梅。黄金きんとかす炎のごとき妙義山の錦葉もみじに対して、ハッと燃え立つ緋の片袖。
革鞄の怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
背きがち、うなだれがちに差向ったより炉の灰にうつくしい面影が立って、そのうすい桔梗の無地の半襟、お納戸縦縞たてじまあわせの薄色なのに、黒繻珍くろしゅちんに朱、あい群青ぐんじょう白群びゃくぐんで、光琳こうりん模様に錦葉もみじを織った。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
錦葉もみじに出掛けた。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)