透徹すきとお)” の例文
莫迦ばかな事を言え。ず青空を十里四方位のおおきさにって、それを圧搾して石にするんだ。石よりも堅くて青くて透徹すきとおるよ』
火星の芝居 (新字新仮名) / 石川啄木(著)
しかし秩父の連山は一点の曇も無く、ちぎれ雲の漂う南の空に、紫を帯びた藍の透徹すきとおるような色に聳えているのが堪らなく嬉しかったのである。
秩父の奥山 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
眉山の色の白さは透徹すきとおるようで、支那人が玉人ぎょくじんと形容するはこういう人だろうと思うほどに美くしく、何時いつでも薄化粧しているように見えた。
しかしその声は、透徹すきとおった空気の中から出て来るとしか思えませんでした。『今し方までいたのとまるで同じ所ですよ。あなたは僕が見えないんですか?』
上一枚は透徹すきとおる硝子で、葉茶屋の土蔵だの、穢いトタン塀のてっぺん、自分の家の古びた庇などが、いつも同じ光線の中に見えた。そこから、空は見えなかった。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
鼻筋が透徹すきとおるように通って、ほんのりと歯と唇が見えた……それなりがっくりと髪も重そうに壁を向いた処へ、もう一度、きみの母親がのしかかって嬰児あかんぼを差出すと
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
蚕の或物はその蒼白あおじろ透徹すきとおるようなからだ硬張こわばらせて、細い糸を吐きかけていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
空気透徹すきとおりたれば、残るくまなくあざやかに見ゆるこの群の真中まなかに、馬車一輛いちりょうめさせて、年若き貴婦人いくたりか乗りたれば、さまざまのきぬの色相映じて、花一叢いっそう、にしき一団、目もあやに
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
或時はやや病が衰えて元気が回復したかのように、透徹すきとおるようなやつれた顔に薄紅の色がさして、それは実に驚くほどの美しさが現われることも有ったが、それはかえって病気の進むのであった。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
い声だ。たッぷりと余裕のある声ではないが、透徹すきとおるように清い、何処かに冷たい処のあるような、というと水のようだが、水のように淡くはない、シンミリとした何とも言えぬ旨味うまみのある声だ。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
透徹すきとおっていた筈の上等ガラスが、金の板になってしまっていて、勿論、金としては値打があっても、眼鏡としては使いものにならなくなっていたからでした。
ドチラかというと寡言の方で、眼と唇辺に冷やかな微笑を寄せつつ黙して人の饒舌おしゃべりを聞き、時々低い沈着おちついた透徹すきとおるような声でプツリととどめをすような警句を吐いてはニヤリと笑った。
斎藤緑雨 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
あかりが映つて、透徹すきとおつて、いつかの、あの時、夕日の色に輝いて、ちょうど東の空に立つたにじの、其の虹の目のやうだと云つて、薄雲うすぐもかざして御覧なすつた、奥様の白い手の細い指には重さうな
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
あかりが映って、透徹すきとおって、いつかの、あの時、夕日の色に輝いて、ちょうど東の空に立ったにじの、その虹の目のようだと云って、薄雲にかざして御覧なすった、奥様の白い手の細い指には重そうな
紅玉 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)