追駈おいか)” の例文
私が号外売りを追駈おいかけて行って買ったのは、暑い夏の頃で、ヂリヂリ照りつける陽で道の砂が足裏(私達小児こどもはみな大抵たいてい跣足はだしで過した)
戦争雑記 (新字新仮名) / 徳永直(著)
「いや、僕がいま追駈おいかけていたのです。もしや犯人ではないかと思ったのでネ」と一郎は云ってあたりの木立を見廻わした。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
今まで躊躇ちゅうちょしていた芳江は、嫂の姿が見えなくなるや否や急に意を決したもののごとく、ばたばたとそのあと追駈おいかけた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それを見て、直に新聞記者たちの幾台かの自動車も追駈おいかけて走ったが、東京へはいると突然、間をさえぎる自動車が飛出して来て、目的通りに邪魔を入れてしまった。
芳川鎌子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
仔細しさいはないのでございますがな、この役者なかまと申しますものは、何かとそのつきあいがまた……うるさいのでして、……京から芸妓げいこはんが路之助を追駈おいかけて逢いに来たわ
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
どこかで、押しつぶした様な、いやなにわとりの鳴声がした。それを聞くと彼はもうたまらなくなって逃げだしてしまった。墓場を通り抜ける時は何かに追駈おいかけられている気持だった。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
こうしたかんがえを一瞬間のうちに頭にひらめかした私は、又も、何者かに追駈おいかけられているような予感がして、チョット腕時計と電気時計を見較べた。どちらも十二時に四分前である。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ぴきいぬえながらかれう。うしろほうでは農夫のうふさけぶ。イワン、デミトリチは両耳りょうみみがガンとして、世界中せかいじゅうのあらゆる圧制あっせいが、いまかれ背後うしろせまって、自分じぶん追駈おいかけてたかのようにおもわれた。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
帆村はもう必死で、このコンパスの長い韋駄天いだてん追駈おいかけた。そして横丁を曲ったところで追付いて、ついに組打ちが始まった。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
鈴の音を聞くと、叔母も母も読めもしないくせに、顔色を変えて狼狽あわてて買いにやった。私は跣足はだしでたびたび号外売りのあとを追駈おいかけたことがあった。
戦争雑記 (新字新仮名) / 徳永直(著)
転んだ奴あ随分あったそうだけれど、大した怪我人もなし、持主が旦那様なんですから故障をいう奴もねえんで、そっちゃ安心をして追駈おいかけて来ましたが、何は若様はどちらへ行ったんで。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
振向くと、さっきの山田という社員が、追駈おいかけて来たのだ。そして
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
何が何やら分らないながら、彼は追駈おいかけてゆく決心を定めた。そして梯子段を下へトントンと駈け下りて行ったが、そこには、宿のお内儀が倒れていた。
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)
追駈おいかけるんだ」
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そのくせ当人は、痣蟹が屍体を盗んでいったと称しています。あれはせの兄ですよ。本当の兄なら、屍体を取返そうと思って死力しりょくをつくして追駈おいかけてゆきます
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
僕は吾儘わがままな向っ腹を立てて歩きだした。するとうしろから魚戸の声が追駈おいかけてきた。
宇宙尖兵 (新字新仮名) / 海野十三(著)