蹴躓けつまず)” の例文
惣助は盥のまわりをはげしくうろついて歩き、とうとう盥に蹴躓けつまずいて盥のお湯を土間いちめんにおびただしくぶちまけ母者人に叱られた。
ロマネスク (新字新仮名) / 太宰治(著)
しかし、これには、絨毯に蹴躓けつまずいたり、出口のつもりで書棚の硝子ガラス戸に手をやったりしないように、大変な注意を要します。
踊る地平線:10 長靴の春 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
盲目聾めくらつんぼで気にはしないが、ちと商売人の端くれで、いささか心得のある対手あいてだと、トンと一つ打たれただけで、もう声が引掛ひっかかって、節が不状ぶざま蹴躓けつまずく。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
証人の上がる壇に蹴躓けつまずいたりするのも自然らしく見えた。これは勿論同じことを毎日繰返しているのである。
初冬の日記から (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
大げさに一つぽっくりと礼をばするや否や、飛石に蹴躓けつまずきながら駈け出してわが家に帰り、帰ったと一言女房にも云わず、いきなりに雛形持ち出して人を頼み
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
永い道中、女の小智に翻弄ほんろうされて蹴躓けつまずくごとに、彼は、そのみじめな狼狽の舌打ちを重ねて来た。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その愚かな奴らは陸へ上るや否や宝に蹴躓けつまずいて向脛むこうずねをへし折るくらいに思っていたに違いない。
重い大きな物に蹴躓けつまずいてあっと思うと諸に転んだ、町の真中に寝ているやつがある。
雨水でくぼんだ路が、草むらの中に入り乱れている、時々大石に蹴躓けつまずいては、爪を痛める、熊笹が人より高くなって、掻き分けて行くと、ねかえりざまに顔をぴしゃりと打つ、笹のざわつくたびに
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
の時おれは一生懸命本堂へ逃げあがったが、本堂の様子が分らねえから、木魚に蹴躓けつまずいてがら/\音がしたので、驚いて跡から追掛おっかけるのかと思ったが、うじゃアないので、又逃げようとすると
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
アイスクリームか、ぶっかきか、よくも見ないで、すたすた、どかどか、がらん、うしろを見られる極りの悪さに、とッつき玄関の植込の敷石に蹴躓けつまずいて、ひょろ、ひょろ。……
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「来なくってもいい。俺の家は吉原という白粉おしろいの街だ。てめえのような聖人君子は、足ぶみするな……もしあやまって、てめえが、俺のような蹴躓けつまずきをしてみやがれ、気の毒だが幇間たいこもちもできやしねえ!」
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
○「其の女が蹴躓けつまずきやアがったんで」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
謀叛人むほんにんが降つて湧いて、まる取詰とりつめたやうな騒動だ。将軍の住居すまいは大奥まで湧上わきあがつた。長袴ながばかますべる、上下かみしも蹴躓けつまずく、茶坊主ちゃぼうずは転ぶ、女中は泣く。追取刀おっとりがたなやり薙刀なぎなた。そのうち騎馬で乗出のりだした。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「御迷惑。」と口も足も、学士は蹴躓けつまずいたようであった。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)