表裏ひょうり)” の例文
つまり、表裏ひょうり両道から敵を攻めるという戦法なんだよ。ところが、昨夜の事件で、愈々この二つの論理の正否を確める時が来た。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
じれったそうに言い切った。葛木はこうとした。表裏ひょうり、反覆、とにかくながら、対手あいてが笑ったから、話は済んだ、と思ったのである。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
世間には諷語ふうごと云うがある。諷語は皆表裏ひょうり二面の意義を有している。先生を馬鹿の別号に用い、大将を匹夫ひっぷ渾名あだなに使うのは誰も心得ていよう。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
人間の生計あるいは生活あるいは品行ひんこうにおいていわゆる表裏ひょうり(ことにいわゆるなる文字を使うことに注意をうながしたい)
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
激動中の表裏ひょうりには、怪奇複雑なかけひきやら、政治的な離合りごうなども、さまざま、波の底にはおこなわれている。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
手塚はいつも表裏ひょうり反覆はんぷくつねなき少年で、今日は西に味方し明日は東に味方し、好んで人の間柄をさいて喜んでるので、光一はかれのいうことをさまで気にとめなかった。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
陰陽いんよう表裏ひょうり共に自家の利益りえき栄誉えいよを主張してほとんど至らざるところなく、そのこれを主張することいよいよ盛なる者に附するに忠君ちゅうくん愛国あいこく等の名を以てして、国民最上の美徳と称するこそ不思議なれ。
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
家康は初めて微笑びしょうした。人生は彼には東海道の地図のように明かだった。家康は古千屋の狂乱の中にもいつか人生の彼に教えた、何ごとにも表裏ひょうりのあるという事実を感じないわけにはかなかった。
古千屋 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「そんなに表裏ひょうりのある娘なら考えものだ」
嫁取婿取 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
そのままという所に重きを置いて世態せたいをありのままに欠点も、弱点も、表裏ひょうりともに、一元にあらぬ二元以上にわたって実際を描き出すのであります。
教育と文芸 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかるに表裏ひょうりという言葉を用うると、とかく従来の習慣にとらわれ、表は善く、裏は悪きものと解し、ただちに是非ぜひ曲直きょくちょく善悪ぜんあくの区別をこれに結びつけ、物の見方人の見方をあやまることが多い。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
表裏ひょうり北陸ほくりく
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
世に住むこと二十年にして、住むに甲斐かいある世と知った。二十五年にして明暗は表裏ひょうりのごとく、日のあたる所にはきっと影がさすと悟った。三十の今日こんにちはこう思うている。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
およそいかなる物でも物として表裏ひょうりなきものはあるまい。いかにうすき平面にてもいやしくも実物である以上は必ず表と裏とがある。表裏なき表面は、ただ幾何学きかがく上に現れた理想的の形たるにとどまる。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
人間は表裏ひょうりのあるものであるとして、社会もおのれも教育するのであります。
教育と文芸 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「奥さん心配なさらないでも好ござんす。たとい猿がこの席にいようとも、我々は表裏ひょうりなく彼を猿々と呼び得る人間なんだから。その代り向うじゃ私の事を豚々って云ってるから、おんなじ事です」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)