街路とおり)” の例文
その洋服の男の前のテーブルにも街路とおりの方を背にして、鳥打帽を筒袖つつそでの店員のようなわかい男がナイフとホークを動かしていた。
港の妖婦 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
音羽おとわの九丁目から山吹町やまぶきちょう街路とおりを歩いて来ると、夕暮くれを急ぐ多勢の人の足音、車の響きがかっとなった頭を、その上にものぼせ上らすように轟々どろどろとどよみをあげている。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
公園の周囲まわりは目抜きの街路とおりで、十二時を過ぎても尚人通りが賑やかにゾロゾロ続いていた。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
まだに麦稈むぎわらのような夏帽子を被っている肥ったその男は、街路とおりの真中を歩きながらこっちへ眼を持って来た。菊江は急いで往きちがった。
女の怪異 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
街路とおりには晩春の午後のが明るくして、町はひっそりとしていた。そこここの塀越しに枝を張っている嫩葉わかばにも風がなかった。
指環 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
微曇うすぐもりのした空に月があって虫のが一めんにきこえていた。街路とおりには沙利じゃりを敷いてあった。菊江はその街路とおりを右の方へ往った。
女の怪異 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
沙利じゃりを敷いた路は思うように歩けなかった。左側の街路とおりに沿うた方を低い土手にして庭前にわさき芝生しばふにしてある洋館の横手の方で犬の声がした。
女の怪異 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そこは狭い黒ずんだ街路とおりになっていて、一方にも食糧品を売る店がごたごたと並んで、支那人がおもにそこを往来していた。
港の妖婦 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そして、三つ目の街路とおりを見つけて、それを右へ折れて往ったが、海岸へも来なければ会社らしい建物も見つからなかった。
港の妖婦 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
同じ路次ろじへ入ったり出たりしたのちに、やっと人通りの多い賑やかな街路とおりへ出て、やや心を落つけることができた。
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
普通に——町へ往くには学校の崖下になった広い街路とおりを往くのであるが、それではひどく迂路まわりみちになるので、彼は平生いつものようにその捷径を選んだのであった。
馬の顔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
店頭みせさきにいた定七がじょちゅうが呼びに来たので、急いで番傘をさして街路とおりへ出た。広巳が蛇目傘じゃのめがさかつぐようにさして、大森の方からふらふらと帰って来たところであった。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
壮い男が街路とおりの真中で倒れている山路の主人の上に腰をかけて、腹に刀を突っ刺したところであった。
指環 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
街路とおり一つ距てて母屋と向きあったみせは、四けん室口まぐち硝子戸ガラスどが入り、酒味噌酢などを商うかたわらで、海苔のりの問屋もやっていた。それはもう三時近かった。肆には二三人の客があった。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そのは空に薄雲うすぐもがあって月の光が朦朧もうろうとしていた。人通りはますますすくなくなって、物売る店ではがたがたと戸を締める音をさしていた。仲店なかみせ街路とおり大半おおかた店を閉じて微暗うすぐらかった。
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
狭い街路とおりには生垣のある家があった。その時広巳の頭にふと浮んだものがあった。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
奴さんは恐れて、螺旋形らせんけいの階段を走りおりて街路とおりへでたのだ、そして、奴さんの意識は朦朧もうろうとなってしまったさ、奴さんは人道じんどう車道しゃどうも区別なしに歩いていると、荷物かもつ自動車がやって来たさ
雨夜草紙 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ちょうど仲店の街路とおり中央なかほどになったところで、右側の横町から折れて来て眼の前に来た女の子があった。それはかの小女こむすめであった。青光あおびかりのするような友禅ゆうぜん模様の羽織はおりの模様がはっきり見えた。
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
夜店のうしろ街路とおりには蜜柑みかんの皮やバナナの皮が散らばっていた。哲郎はそこを歩きながら今の女はどこへ往ったろうと思ってむこうの方を見た。むこうには微暗うすぐらい闇があるばかりで人影は見えなかった。
青い紐 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
その葉ももやがあって、街路とおりの燈がぼうとしていた。
妖影 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)