蒼海そうかい)” の例文
朦朧もうろうと見えなくなって、国中、町中にただ一条ひとすじ、その桃の古小路ばかりが、漫々として波のしずか蒼海そうかいに、船脚をいたように見える。
絵本の春 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かけきしにいままへてもふがかなしき事義じぎりぬじようさまの御恩ごおん泰山たいざんたかきもものかずかはよしや蒼海そうかいたま
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
一つずつ膚に谷の刻みを持ち、ハレーションを起しつつ、悠久に蒼海そうかいを流れ行く氷山である。そのハレーションに薄肉色のもあるし、黄薔薇色きばらいろのもある。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
右手はただもウ田畑ばかり,こッちの方には小豆ささげの葉の青い間から白い花が、ちらちら人を招いていると,あちらには麦畑の蒼海そうかいが風に波立ッているところで
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
だが、そうした真の牢人は、蒼海そうかいたまのように少ないともよく嘆かれておった。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ニルヤの言い伝えなども、凡眼ぼんがんに見えぬ沖の小島のようにも言えば、また時あっては蒼海そうかいしおを押し分けて、水底にいわゆる可怜小汀(うましをはま)の真砂まさごを踏んだと説く場合もある。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
風にまれてうわそらなる波を起す、軽薄で騒々しいおもむきとは違う。目に見えぬ幾尋いくひろの底を、大陸から大陸まで動いている潢洋こうようたる蒼海そうかいの有様と形容する事が出来る。ただそれほどに活力がないばかりだ。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
立像と鏡! かれの目は、そこの蒼海そうかいのへりに立つ姿を抱いた。
蒼海そうかいの色なお存す目刺めざしかな
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
八万四千の眷属けんぞくて、蒼海そうかいを踏み、須弥山しゅみせんさしはさみ、気焔きえん万丈ばんじょう虚空を焼きて、星辰せいしんの光を奪い、白日闇はくじつあんの毒霧に乗じて、ほこふるい、おのを振い、一度ひとたび虚空に朝せんか、持国広目ありとというとも
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)