菜畠なばたけ)” の例文
揃って、むらはげ白粉おしろいが上気して、日向ひなたで、むらむらと手足を動かす形は、菜畠なばたけであからさまに狐が踊った。チャンチキ、チャンチキ、田舎の小春の長閑のどけさよ。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……秋も末になった或る日、植木畑の片隅に作った菜畠なばたけで、お紋がざるを片手に菜を採っていると、すぐ脇の道を通りかかった三人づれの女たちが、びっくりするような声をあげて呼びかけた。
野分 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
途中は新地の赤い格子、青い暖簾のれん、どこかの盛場の店飾も、活動写真の看板も、よくは見ません。菜畠なばたけに近い場末の辻の日溜ひだまりに、柳の下で、ふなを売るおけを二人で覗いて
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
パッパッと田舎の親仁おやじが、てのひらへ吸殻を転がして、煙管きせるにズーズーとやにの音。くく、とどこかで鳩の声。あかねあねえも三四人、鬱金うこん婆様ばさまに、菜畠なばたけ阿媽かかあまじって、どれも口を開けていた。
妖術 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かけひみづくるとて、嫁菜よめなくきひとみつゝ、やさしきひとこゝろかな、なんのすさみにもあらで、たらひにさしけるが、ひきときぎぬあゐえて、嫁菜よめな淺葱色あさぎいろえしを、菜畠なばたけ日南ひなたいこひて
婦人十一題 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
トちょっとあらたまった容子ようすをして、うしろ見られるおもむきで、その二階家にかいやの前からみち一畝ひとうねり、ひく藁屋わらやの、屋根にも葉にも一面の、椿つばきの花のくれないの中へ入って、菜畠なばたけわずかあらわれ、苗代田なわしろだでまた絶えて
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)