荒胆あらぎも)” の例文
旧字:荒膽
どうしてどうして、彼はまるで意表外のやり方で、私の荒胆あらぎもをひしいだのです。というのは、彼はいきなりゲラゲラと笑い出したのです。
D坂の殺人事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
むしろ、これから世のあらゆるものに出会う一歩のかど物試ものだめしとうけて、いよいよ生来の荒胆あらぎもを、御輿のうちに、すえておられたかもしれない。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一見自分は先ず荒胆あらぎもを抜かれてしまった。志村の画題はコロンブスの肖像ならんとは! しかもチョークで書いてある。元来学校では鉛筆画ばかりで、チョーク画は教えない。
画の悲み (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
これに荒胆あらぎもを挫がれた新蔵は、もう五分とその場に居たたまれず、捨台辞すてぜりふを残すのもそこそこで、泣いているお敏さえ忘れたように、蹌踉そうろうとお島婆さんの家を飛び出しました。
妖婆 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
これにはさすが江戸ッ児のキチャキチャ(チャキチャキの誤り)弥次郎兵衛、喜多八でさえも荒胆あらぎもをひしがれたので、この一派は江戸者に対して常に一種の敵愾心てきがいしんを蓄えている。
俺は彼奴を心の底からおどして見ようと思っている。彼奴を勝手に逃げさせるのだ。そうして四擒四縦の手で彼奴の荒胆あらぎもくじいてやるのだ。そうしたらいかに強情でも俺に従うに相違ない。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
一度は思わず喝采をしたものの、流石さすがの荒くれ男共もこうしたお作のズバリとした思付きに、スッカリ荒胆あらぎもられてしまって、その次の瞬間には、水を打ったようにシンとしてしまったのであった。
斜坑 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
短気な警部はどうやら荒胆あらぎもをひしがれたらしい。
わけていま、永禄四年ごろは、後の天正、慶長などの時代よりは、もっともっと人間が骨太ほねぶとだった。荒胆あらぎもだった、生命を素裸にあらわしていた。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ただ精悍無比せいかんむひ……というよりは無茶なその挙動が、すべての人の荒胆あらぎもをひしぎました。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
私を囲んでいた友人たちは、これだけでも、もう荒胆あらぎもひしがれたのでしょう。皆顔を見合せながらうっかり側へ寄って火傷やけどでもしては大変だと、気味悪るそうにしりごみさえし始めるのです。
魔術 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
足下そっからが善後策を講じる間もなく不意を衝いて、敵の荒胆あらぎもひしぐという——この行き方が、つまり軍学の極意と申すもの
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一座の者の荒胆あらぎもひしいで興がるために、火鉢の中へ弾丸をうずめておいたものがある。それがね出した時に、一座の狼狽ぶりを見て笑ってやろうという悪戯者いたずらものがあったのだと思いました。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
いったい堺そだちの商業人は、荒胆あらぎもの戦国武将たちをも、そう眼中にはかないくらいな独自の豪毅ごうきを持っている。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
荒胆あらぎもでは、人におくれをとらない諸武将すら、度胆をぬかれた顔しているので、たまりかねて曹操が雷喝らいかつした。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
名馬青嵐を打たせてゆらゆら行けば、玄蕃允の荒胆あらぎもにも月花の風流ならぬ歌心が、しきりに胸を往来した。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
余りにやつれていては、一旦いったんの籠城にかばかり老いさらばいつるかと、中国武士の荒胆あらぎもを軽んぜられも致そうか。——さもありては口惜しきゆえ、かくは男をつくりて候ぞや。わらうな。嗤うな
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
むしろ、その新進気鋭なことと、次の時代に活眼をもっている点では、諸侯の中の新人として、戦国育ちの腕自慢ばかりを事としている荒胆あらぎもな老大名よりは、遥かに立ちまさっているところもある。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、官兵衛一流の見解をのべて、まず相手の荒胆あらぎもをなだめ、諄々じゅんじゅん
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)