花瓶かへい)” の例文
反物たんもの片端かたはしを口にくわへて畳み居るものもあれば花瓶かへい菖蒲しょうぶをいけ小鳥に水を浴びするあり。彫刻したる銀煙管ぎんぎせるにて煙草たばこ呑むものあり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
花屋へ這入って、大きな白百合しろゆりの花を沢山買って、それを提げて、宅へ帰った。花はれたまま、二つの花瓶かへいに分けてした。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かぞえきれぬ程な間ごと間ごとの花瓶かへいや籠には、菊が匂った。老女らと共に、それぞれの室にも挿花そうかの意匠をほどこしおえた草心尼は、やがて
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
思いづる三月の二日、今日は常にまさりて快く覚ゆるままに、久しく打ちすてし生け花の慰み、しゅうと部屋へや花瓶かへいにささん料に、おりから帰りてたまいし良人おっとに願いて
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
隔ての唐紙からかみを取払い、テーブルを一脚いっきゃく東向きにえ、露ながら折って来た野の草花を花瓶かへい一ぱいにした。女郎花おみなえし地楡われもこう、水引、螢草、うつぼ草、黄碧紫紅こうへきしこう入り乱れて、あばら家も為に風情ふぜいを添えた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
いつも痒いところに手が届きけり。されば八重去つてよりわれまた肴饌こうせんのことを云々うんぬんせず。机上の花瓶かへいとこしなへにまた花なし。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
それでも臆面おくめんなく色々の花が私の床を飾ってくれました。もっとも活方いけかたはいつ見ても同じ事でした。それから花瓶かへいもついぞ変ったためしがありませんでした。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
枕元の花瓶かへいにも佇ずんだ。廊下のすぐ下をちょろちょろと流れる水のにも佇ずんだ。かくわが身をめぐる多くのものに彽徊ていかいしつつ、予定の通り二週間の過ぎ去るのを待った。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一間いっけんとこには何かいわれのあるらしいらいという一字を石摺いしずりにした大幅たいふくがかけてあって、その下には古い支那の陶器と想像せられる大きな六角の花瓶かへいが、花一輪さしてないために
代助は花瓶かへいの右手にある組み重ねの書棚の前へ行って、上に載せた重い写真ちょうを取り上げて、立ちながら、金の留金を外して、一枚二枚と繰り始めたが、中頃まで来てぴたりと手を留めた。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)