肩掛ショオル)” の例文
あわれだとお思いなすって、母様がおあしを恵んで、肩掛ショオルを着せておやんなすったら、じいさん涙を落して拝んで喜びましたって、そうして
化鳥 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
最初の人は、黒い髮と、黒い眼と、蒼白あをじろい廣いひたひとを持つた、背の高い婦人であつた。彼女のからだは、半ば肩掛ショオルに包まれてゐた。彼女の風貌は重々しく、姿勢は、すつきりしてゐた。
お絹が、階子段を転げた時から、片手に持っていた、水のように薄色の藤紫の肩掛ショオルを、俯向うつむいた頬へ当てたのです。
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あわただしい折から手の触るも顧みず、奪うがごとく引取って、背後うしろから夫人の肩を肩掛ショオルのように包むと、撫肩はいよいよ細って、身をすくめたがなお見げな。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
頭巾着て肩掛ショオル引絡ひきまとえる小親が立姿、月下にななめなり。横向きて目迎えたればと寄りぬ。立並べば手を取りて
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
婦人は毀誉きよを耳にも懸けず、いまだ売買の約も整わざる、襯衣を着けて、はだえを蔽い、肩を納め、帯をめ、肩掛ショオルを取りてと羽織り、悠々として去らんとせり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それに焦茶の肩掛ショオルをしたのは、今日あたりの陽気にはいささかお荷物だろうと思われるが、これも近頃は身躾みだしなみの一ツで、貴婦人あなた方は、菖蒲あやめが過ぎても遊ばさるる。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
とて、左の袖下掻開かいひらきて、右手めてを添えて引入れし、肩掛ショオルのひだしとしとと重たくわが肩にかかりたり。冷たき帯よ。その肩のあたりに熱したる頬をでて、時計の鎖輝きぬ。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
われは肩掛ショオルの中に口籠くちごもりぬ。袖おもておおいたれば、掻分かきわけて顔をばいだしつ。冷たき夜なりき。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この会場にるものは、位ある有髯ゆうぜん男子も脱帽して恭敬の意を表せざるべからざるに、かれは何者、肩掛ショオルかつぎ、頭巾目深に面を包みて、顔容かおかたちは見えざれども、目はひややかに人を射て
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
薄色縮緬の頭巾ずきん目深まぶかに、唐草模様の肩掛ショオルて、三枚がさね衣服きものすそ寛闊かんかつに蹴開きながら、と屑屋の身近にきたり、冷然として、既に見えざる車を目送しつつ、物凄ものすごえみを漏らせり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
くくり枕のかたわらには、盆の上に薬の瓶、左の隅に衣桁いこうがあって、ここに博多の男帯、黒縮緬ちりめんの女羽織、金茶色の肩掛ショオルなど、中にも江戸づまの二枚小袖、藤色にもすそいて、かさねたままの脇開わきあけ
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)