老媼おうな)” の例文
まったく田舎の一老媼おうなである。果報にすぎると、常に勿体ながるばかりであった。その母は、誰よりも、寧子が気に入っていた。
日本名婦伝:太閤夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かれは清川お通とて、親も兄弟もあらぬ独身ひとりみなるが、家を同じくする者とては、わずかに一にん老媼おうなあるのみ、これそのなり。
妖僧記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
フルヰアの老媼おうなはテレザの髮とその藏め居たりしジユウゼツペの髮とを銅銚どうてうに投じて、しき藥艸と共に煮ること數日なりき。
少女はびたる針金の先きを捩ぢ曲げたるに、手を掛けて強く引きしに、中には咳枯しはがれたる老媼おうなの聲して、「ぞ」と問ふ。
舞姫 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
昼餉ひるげとうべにとて立寄りたる家の老媼おうなをとらえて問いただすに、この村今は赤痢せきりにかかるもの多ければ、年若くさかんなるものどもはそのためにはしり廻りて暇なく
知々夫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
同年者もとかくに止め、別して彼が幼き時膝にあげたる一人の老媼おうな、阿園とともに昼ごろまで泣きて止めたれど動く様子少しもなく、いよいよ明朝の出立と定まりぬ、阿園も今は涙を
空家 (新字新仮名) / 宮崎湖処子(著)
街の角冬は日向とひろげたる襤褸ぼろのつぎはぎに老媼おうならありき
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
少女はびたる針金の先きをぢ曲げたるに、手を掛けて強く引きしに、中には咳枯しはがれたる老媼おうなの声して、「ぞ」と問ふ。
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
この枯野に、なにを探しているのか、草むらの中にうずくまって、土を掻き分けていた老媼おうなが、彼の跫音あしおとにふと顔をあげ
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
蝦蟇法師がまほうしがお通に意あるが如き素振そぶりを認めたる連中は、これをお通が召使の老媼おうなに語りて、且つたわぶれ、且つ戒めぬ。
妖僧記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わがアヌンチヤタと老媼おうなとを伴ひて旅館にかへりしとき、門守る男はベルナルドオが留守におとづれしことを告げたり。我友はこの男の口より二婦人を連れ出だしゝものゝ我なるを聞けりといふ。
あるじの老媼おうないなかうどの心ゆるやかに、まことにあしき病なんど行わるる折なれば、くず湯召したまわんとはよろしき御心づきなり、湯の沸えたぎらばまいらせんほどに、しばし待ちたまえといいて
知々夫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
少女はびたる針金の先きをねじ曲げたるに、手を掛けて強く引きしに、中には咳枯しわがれたる老媼おうなの声して、「ぞ」と問う。
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
枯草と同じようなうすい無地の着物をその老媼おうなは着ていた。綿のふっくら入っている胴衣どうぎひもだけが紫色なのである。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さらばそれも見んとて老媼おうなにわかれ立出で、それとおぼしき家にことわりいいて、と裏の方に至り見るに、大さのやや異なるのみにて、ここのもそのさま前のと同じく、別に見るべきところもなし。
知々夫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
さるほどに蝦蟇法師がまほうしはあくまで老媼おうなきもを奪いて
妖僧記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
卑屈な悪口屋の儒者が、瓜園の老媼おうなと言ったように、彼女は、きわめて質素な田舎のお婆あさんでしかなかった。
梅颸の杖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
のごとき色の顔は燈火ともしびに映じて微紅うすくれないをさしたり。手足のかぼそくたおやかなるは、貧家のおみなに似ず。老媼おうなへやを出でしあとにて、少女おとめは少しなまりたる言葉にて言う。
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そして附近の汚い老媼おうなや、潮臭しおくさい漁師の子らが、菓子をもらうため、太守のまわりにはえのようにたかって来ても、太守はうるさいとも無礼だともとがめなかった。
「これを上人様に——」と、真心こめた餅や、紙や、花などの供物を捧げる老媼おうなだの
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
田夫でんぷ野人やじんと呼ばれる彼らのうちには、富貴の中にも見られない真情がある。人々は、食物を持って来て玄徳に献げた。またひとりの老媼おうなは、自分の着物の袖で、玄徳の泥沓どろぐつを拭いた。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『彼は瓜園かえん老媼おうなまでひき出して売名の具にする』
梅颸の杖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)