縄張なわば)” の例文
旧字:繩張
震災前しんさいぜんには、この辺は帆村の縄張なわばりだったが、今ではすっかり町並まちなみ一新いっしんしてどこを歩いているものやら見当がつかなかった。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
小僧こぞう、だれにはなしをつけて、おれ縄張なわばうちらしゃあがったか。そのかねを、みんなここへしてしまえ。」と、たかいのは少年しょうねんをにらみつけていいました。
石をのせた車 (新字新仮名) / 小川未明(著)
話がつい人相とか方位とか云う和尚の縄張なわばり内にんだので、冗談半分わたしの未来はどうでしょうと聞いて見たら、和尚は眼をえて余の顔をじっと眺めたあと
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「つぎに祭である。もってこいじゃ。そのおやじは香具師やし縄張なわばりなどにも顔のきくところより、日本一太郎を後見し、自ら太夫元たゆうもととなって祭の境内に一小屋あけるな」
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
言って見れば、中津川の庄屋は村方の年貢米だけを木曾福島の山村氏(尾州代官)に納める義務はあるが、その他の関係においては御三家の随一なる尾州の縄張なわばりの内にある。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
しかし、躑躅つつじさき平城ひらじろは、厳重げんじゅうをきわめているうえに、さすがはむかし信玄しんげんじしんが縄張なわばりをしたくるわだけあって、あさい外濠そとぼりえて、向こうの石垣いしがきにすがるたよりもなかった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
源氏の心は自然かれていくのであるが、良清よしきよが自身の縄張なわばりの中であるように言っていた女であったから、今眼前横取りする形になることは彼にかわいそうであるとなお躊躇ちゅうちょはされた。
源氏物語:13 明石 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「K劇場なら僕の縄張なわばりじゃ。縄張りを荒すとはけしからん」
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
この、金剛寺門前町と鷹匠町がそれで、昔から、犬猿けんえんのあいだがらだったから、やれ、縁日の縄張なわばりがどうのこうの、祭の割り前が多いのすくないのと、しじゅうごたごたをつづけている。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ただ自他の関係を知らず、眼を全局に注ぐ能わざるがため、わが縄張なわばりを設けて、いい加減なところに幅をかして満足すべきところを、足に任せて天下を横行して、はばからぬのがわざわいになる。
作物の批評 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そこまで帰って来れば、尾張おわりの大領主が管轄の区域には属しながら、年貢米ねんぐまいだけを木曾福島の代官山村氏に納めているような、そういう特別な土地の関係は、中津川辺と同じ縄張なわばりの内にある。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
広い詩界をわざとらしく窮屈に縄張なわばりをして、きわめて自尊的に、極めてことさらに、極めてせせこましく、必要もないのに鞠躬如きくきゅうじょとして、あぶくを飲んで結構がるものはいわゆる茶人である。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)