縁前えんさき)” の例文
その夜、丑満うしみつの鐘を撞いて、鐘楼しょうろうの高い段から下りると、じじいは、この縁前えんさき打倒ぶったおれた——急病だ。死ぬ苦悩くるしみをしながら、死切れないと云って、もだえる。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
奉行の座の左右には継肩衣つぎかたぎぬをつけた目安方公用人が控え、縁前えんさきのつくばいと申す所には、羽織なしではかま穿いた見習同心が二人控えて居りまして、目安方が呼出すに従って
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
朝日あさひかげ窓にまばゆき頃、ふらふらと縁前えんさきに出づれば、くや、檐端のきばに歌ふ鳥の聲さへ、おのが心の迷ひから、『そなたゆゑ/\』と聞ゆるに、覺えず顏を反向そむけて、あゝと溜息ためいきつけば、驚きて群雀むらすゞめ
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
海の波がしずかにこの下を通って、志した水戸屋みなとやと云うのの庭へ、おおきな池に流れて、縁前えんさきをすぐに漁船が漕ぐ。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ひさしはづれに、階下した住居すまひの八でふ縁前えんさき二坪ふたつぼらぬ明取あかりとりの小庭こには竹垣たけがきひとへだてたばかり、うら附着くツついた一けん二階家にかいや二階にかいおな肱掛窓ひぢかけまどが、みなみけて、此方こなたとはむきちがへて
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)