つる)” の例文
ひきしぼったつるをぷつんと切って放った。——矢は、崖下の山寺をおおっている木立のこずえを通って、後に四、五葉ひらひら舞わせていた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さうすれば、私の心のつるをロチスターさんの心から引きちぎつてきずつけるやうな努力をしなくても濟むだらう。私は、あの方のもと
そは土器表面し付け模樣もようの中に撚りを掛けたるひもあと有るを以て推察すゐさつせらる。撚りの有無とつる強弱きよじやくとの關係は僅少の經驗けいけんに由つてもさとるを得べき事なり。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
ダンチョンの声は感激のために弓のつるのように戦慄した。私はそれを手で制して無言で湖水を見守っていた。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
いつの間にとびこんだのか真っ暗な洞窟の中を、つるを放れた矢のような勢いで押し流されていた。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
矢のつるはじかれ空を貫いて飛ぶことはやきもわがこの時見し一の小舟には如かじ 一三—一五
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
といって、つるをはなれた矢のように、行方知れぬ二人をどうすることも出来なかった。
第二の接吻 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
義家よしいえはそれをて、あんなちいさなけものにをあてるのもむごたらしい、おどしてやろうとおもって、ゆみをつがえて、わざときつねの目のまえびたにけてはなしますと、つるをはなれて
八幡太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
無限むげんつるに触れて鳴り
若菜集 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
日本左衛門が、つけ入ろうつけ入ろうとするほど、金吾は堅実味のある平手構ひらてがまえをくずさず、容易につるを切って放たないのは、いつもの金吾とだいぶちがいます。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)