紅毛人こうもうじん)” の例文
そう云う薄暗い堂内に紅毛人こうもうじん神父しんぷが一人、祈祷きとうの頭をれている。年は四十五六であろう。額のせまい、顴骨かんこつの突き出た、頬鬚ほおひげの深い男である。
おしの (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
自分の栄華のために、紅毛人こうもうじんに御国の宝をやって、やくたいもない贅沢ぜいたくな品物を買入れ、それを
紅毛人こうもうじんの散歩場なのでもあるし、つい先ごろまでは、人中で肌などあらわすようなことは、死んでもしないというふうに女はしつけられていたのだから、白昼衆目の見る前で
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
今考えて見ると、幾代か前の先祖が、その頃あの辺によくやって来た、オランダとかイスパニヤとかの紅毛人こうもうじんから、外国風の墓地の構造を聞き伝えて、それを真似たのかも知れない。
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それからまたパリのあるカツフエにやはり紅毛人こうもうじん畫家ぐわか一人ひとり、一わんの「しるこ」をすゝりながら、——こんな想像さうぞうをすることは閑人かんじん仕事しごと相違さうゐない。
しるこ (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
その男というのは、燃えるような赤毛に、白子のような肌をした碧眼へきがんの大男で、紅毛人こうもうじんを見た事のない平次の眼には、地獄変相図から抜け出した、悪鬼のように恐ろしく映ったでしょう。
吉助「われら三年の間、諸処を経めぐった事がござる。その折さる海辺うみべにて、見知らぬ紅毛人こうもうじんより伝授を受け申した。」
じゅりあの・吉助 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そうしてその中に坐りながら、熱心に話し合っている三人の紅毛人こうもうじんとを、読者自身の想像に描いて見るよりほかはない。
さまよえる猶太人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
帝國ていこくホテルや精養軒せいやうけんのマネエヂヤア諸君しよくんなにかの機會きくわい紅毛人こうもうじんたちにも一わんの「しるこ」をすすめてるがい。
しるこ (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
悠々とアビトのすそを引いた、鼻の高い紅毛人こうもうじんは、黄昏たそがれの光のただよった、架空かくう月桂げっけいや薔薇の中から、一双の屏風びょうぶへ帰って行った。南蛮船なんばんせん入津にゅうしんの図をいた、三世紀以前の古屏風へ。
神神の微笑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「しるこ」は西洋料理せいやうりやうり支那料理しなりやうりと一しよに東京とうきやうの「しるこ」をだい一としてゐる。(あるひは「してゐた」とはなければならぬ。)しかもまだ紅毛人こうもうじんたちは「しるこ」のあぢつてゐない。
しるこ (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
柳町やなぎまちくるわにいたのは、まだ三十を越えていない、あから顔にひげの生えた、浪人だと云うではありませんか? 歌舞伎かぶきの小屋をさわがしたと云う、腰の曲った紅毛人こうもうじん妙国寺みょうこくじ財宝ざいほうかすめたと云う
報恩記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)