ごも)” の例文
その日も私は昼から店を切り上げて二人の子供にせがまれて金魚の冬ごもりの池を掘るべく親子で泥んこやをやっている真っ最中であった。
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
「死なんと決心せし次第は」と問われて口ごもり、「ただ母が違うより親子の間よからず、私のために父母のいさかいの絶えぬを悲しく思いて」
良夜 (新字新仮名) / 饗庭篁村(著)
こういうことがあってから一月ほどの日がった。万山を飾って燃えていた紅葉もみじの錦は凋落ちょうらくし笹の平は雪にずもれた。冬ごもりの季節が来たのである。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それをいとうて山へ上ると松籟しょうらい絶えず聞えるので「波の音聞かずがための山ごもり、苦は色かへて松風の声」
東京から来るのもあり、仙台あたりから来るのもあり、尖端的せんたんてきな歌劇の一座ともなれば、前触れに太鼓や喇叭らっぱを吹き立て、冬ごもりの町を車で練り歩くのであった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
折もわるく、清盛は、このころから、不快で、大殿ごもりの陰鬱いんうつな気にみたされている時である。夜ごとに、悪夢をみるらしく、宿直とのいの者に、不気味をおぼえさせた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
誤つて殺害せつがいせしも畢竟ひつきやうは其と云懸いひかけしが口ごもり何事も皆前世の約束と斷念あきらめ居候得ば一日も早く御仕置しおき
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
しからぬ」青木はもう真赤になって口ごもりながら、「わ、我輩が放火つけびでもしたと云われるのか」
琥珀のパイプ (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
「お前だから話すがねえ」までは出ましても、二の句が口ごもって、切れて了います。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ごもる頃ながら——東京もまた砂ほこりたたかいを避けて、家ごとに穴籠りする思い。
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
信子は身ごもった。
雪後 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
「誰も彼も、友だちどもは、隠れものう知っておることよ。今さら、面伏おもぶせに、云いごもっておるよりは、さらりと、胸のうちを申してしまおう。……のう、木下どの」
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)