篝火かがり)” の例文
とくにまた、こよいの足利軍は、示威的な意図もあってその一船一船には、篝火かがりかずのかぎりをかせていた。その景観の状は
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
早櫓はやろでもって、矢を射るようにこの若山丸の船腹近く漕ぎつけて来た一隻の伝馬は、篝火かがりもなし、提灯もなし、ほとんど船の人も気がつかないでいるうちに
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
町の恰度中央なかほどの大きい造酒家さかやの前には、往来に盛んに篝火かがりを焚いて、其周囲めぐり街道みちなりに楕円形な輪を作つて、踊が初まつてゐる。輪の内外うちそとには沢山の見物。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
間もなくトップリ陽が暮れると、陣屋陣屋で焚く篝火かがりの紅の光が空を焼き蒼白い山々の雪を照らし、あたかも山火事のそれかのように四方あたり数里の丘の谷を白昼のように輝かせた。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
外はかば篝火かがり真昼まひるの様に明るい。余等の天幕の前では、地上にかん/\炭火すみびおこして、ブツ/\切りにした山鳥や、尾頭おかしらつきのやまべ醤油したじひたしジュウ/\あぶっては持て、炙っては持て来る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
木蔭は青葉れがする。それなのに、夜営の諸所ではバチバチ篝火かがりをたいていた。防虫のためだろう。月もなし、風もない。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何れも皆踊の輪に加つたので——二箇所ふたところ篝火かがりは赤々と燃えに燃える。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
しかも篝火かがりなどは用いず、部屋部屋の灯もうす暗い短檠たんけいや燭台ぐらいなもので、人々の足音や気配まで、ふだんよりひっそり静まり返っているだけ
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがて縞目しまめをなす杉林のおくに、高楼の灯やら庭上の篝火かがりやら、そこの一郭だけが蛍かごのように明るく見えた。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「まず、大講会だいこうえの二日も、これですんだというもの。ウーム、つかれた。これこれ足軽あしがる篝火かがりよるの篝火を」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見れば! 篝火かがりの下に投げだされた女の死顔、帯も着物も、見返りお綱のに違いないが、息は絶えながらドンヨリした死膜しまくの目で、森啓之助を見ているのは
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小舟のへさきには、篝火かがりが吊ってあった。夜の江口にその火は照りはえて、お通の胸にも赤々と燃えさかった。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夜も深まると、ゆうべのように、倉院の地内は、おぼろな篝火かがりと、舞う花ばかりな、しじまに返った。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
長安の奇計きけいが、ひそかに、耳から耳へつたえられて、どッと、はやしたものだろう。あっちでもこっちでも、ドカドカと篝火かがりをもやして、きゅうに、徳川方とくがわがたの空気が陽気ようきになりだした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大谷刑部少輔しょうゆう吉継の紋を打った幕が、そこの土塀や中門をめぐらして、うまやには、馬のいななきがさかんであった。宿場には、彼の手兵が分宿し、往来には、篝火かがりが夕月をがすほど煙を揚げている。
大谷刑部 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
慨然がいぜんと、篝火かがりかせて、夜寒をしのいでいたが、ふと、うしろを振り向くと、そこには何の屈託も知らない小姓組のうちでも、年少な小つぶばかりが焚火たきびに寄って、一月の寒さというのに
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「じゃ、なおのこと、早くここを開いておいて、篝火かがりをつけておこうね」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
宮の森は、篝火かがりで赤くいぶされた。霧とけむりの上に、宵月があった。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
庭には篝火かがり、上の古御堂のうちには、磯風をふくむ小暗い短檠たんけいの灯。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
城内は赤々と凱歌がいかにかがやく篝火かがりの晩を迎え、荘の本曲輪ほんまるでは一同
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『十介、篝火かがりけっ、あるかぎりの篝火を焚けっ』
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「これ、もう少し、その篝火かがりを」
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ともす篝火かがり
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)