はこ)” の例文
あたかもこれを筐中きょうちゅうに秘蔵するが如くせんとするも、天下、人をおさむるのはこなし、一旦の機に逢うてたちまち破裂すべきをいかんせん。
経世の学、また講究すべし (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
きょうは止そう、きょうこそ通うことは止そうと、いまのいままで考えていながら身はすでに房の内に、花桐の衣裳のはこのかげに坐っていた。
花桐 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
間に十二因縁をかたどった十二のはこを置かした。十二の筐の蓋には白いれが取り付けてあり、筐を繋ぎ並べると、一すじの白い道が通っているように見える。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
彼は机の抽斗ひきだしから白い天鵞絨びろうどはこを出した。筐の中にはいっているのは細いプラティナの指環ゆびわだった。
彼 第二 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
朱塗しゅぬりはこは、騒ぎが一段落済むまで平次が預かり、親の三右衛門がお町に大事を託した心持をくんで、勘当されたせがれの三之助を石井家へ入れてやろうとしましたが
安土竜太郎ははこからヴァイオリンを取出し、みんなは根来八千代を、擬大理石の卓の上へ押上た。
溜息の部屋 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
脊に爪打ち込みしにはあらず。六日立たば、汝この雛を放ち遣りて、日の邊へ飛ばしめよ。斯くつぶやきつゝ、媼は壁の前なるはこを探りて、紙と筆とを取り出でつ。あな、やくなし。
金澤氏の年々受け得た所の二樣の鑑札は、蒼夫さんの家のはこに滿ちてゐる。鑑札は白木の札に墨書して、烙印らくいんを押したものである。札はあな穿うがを貫き、おほふに革袋かはぶくろを以てしてある。
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
小十郎が会津蘆名の旧領地の図牒ずちょうの入って居るはこを開いて示した時には黙って開かせながら、米沢の伊達旧領の図牒の入っている筐を小十郎が開いて示そうとした時には、イヤそれには及び申さぬ
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
眞熊野の浦囘にさけるはこ柳われもたむけむ花の窟に
長塚節歌集:1 上 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
朱塗りのはこは、騷ぎが一段落濟むまで平次が預り、親の三右衞門がお町に大事をたくした心持をくんで、勘當されたせがれの三之助を石井家へ入れてやらうとしましたが
それから抱えていたはこひざの上に置いた。さしわたし五寸ばかりの円い螺鈿らでんの筐で、紫の丸紐まるひもが打ってある。女は紐を解き、蓋をあけて、中から鬱金うこん木綿に包んだ物をとりだした。
(新字新仮名) / 山本周五郎(著)
階段も棚も、おびただしい荷物のはこまでが、はっきり分るようになって来た。
花桐 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
だんじほれたるイイダ姫は、暫く心附かでありしが、かの笛の音ふと耳に入りぬと覚しくにわかにしらべをみだりて、楽器のはこくだくるやうなる音をせさせ、座を起ちたるおもては、常よりあおかりき。
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
それが赤紙の画扇の陰に、何かはこを隠してゐるのは、きつと侍従のしたまりを捨てに行く所に相違ない。その姿を一目見ると、突然平中の心のうちには、或大胆な決心が、稲妻のやうにひらめき渡つた。
好色 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「あっ‼」という龍介君の叫声に、驚いて博士と大佐が駈けつけると、北向の壁の頂上が、龍介君の指の触れるままに、ぽっかりと口をあけて、そこから黒い四角なはこがあらわれた。
危し‼ 潜水艦の秘密 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
だんじほれたるイイダ姫は、しばらく心づかでありしが、かの笛の音ふと耳に入りぬと覚しくにわかにしらべを乱りて、楽器のはこも砕くるようなる音をせさせ、座をたちたるおもては、常より蒼かりき。
文づかい (新字新仮名) / 森鴎外(著)