空身からみ)” の例文
「さあ大変だ。雷横に逃げられちまった。だがあわてるな。罪はおれ一身が着る。飲むだけ飲め。どうせこれから帰りは空身からみだ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ある日空身からみでなんの当てもなく町はずれに出てみると、そこの空地に夫婦者らしい旅芸人が人を集めて手品を見せていた。
抱茗荷の説 (新字新仮名) / 山本禾太郎(著)
小風呂敷一つの空身からみわしですら、十足とあしあるいては腰をのし、一町あるいては息を休めなければならない熱さでありました。
夜烏 (新字旧仮名) / 平出修(著)
「お爺さん、馬に乗せて頂戴な。」ツル子が、もう親しくなつてゐる山番が空身からみの馬を引いて来たのを見つけて、Nと一緒に小山を駆け降りて来た。
山を越えて (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
空身からみですから荷物を持って行きましょう、とその若者が言ってくれる、お民の方ではそれを断わって、主人も待って心配していようから、これからすぐ引き返して
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そういう事情で、豪家の娘が殆ど空身からみ同様で乗り込んできたのであるから、その支度料として親許から千両の金を送ってよこしたのも、別に不思議な事でもなかった。
半七捕物帳:37 松茸 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
善作が空身からみで立っている、手真似てまねで下りろという、崖が急で下りられない、ゆびさす方に従ってようやく下り場所をさがし、偃松の中に転げこむと、荷梯子にばしごがそっくり寝ていた
奥常念岳の絶巓に立つ記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
荷をみんおろしてしまって空身からみなってゝ歩けねえ事はあんめえ、遅くけえると母様かゝさまに叱られるから急いでくんろよ、そうあと退さがッちゃア困るべえじゃねえか、青々どうした青
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
夕方、およそ勇とかつかつの時刻に家の近くまで戻って来ると、祖父ちゃんは用心して裏の露路から空身からみで入り、お石のいないのを確かめて表へ乳母車を押してまわった。
小祝の一家 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
空身からみであるのもあったけれども、竹刀しないと道具とをになっているのもありました。お能をやりたいと言った少年たちのうちには特に得意の美音で、うたいをうたい出したのもありました。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
空身からみでなければ身動きも出来ない。
召捕った二人の縄尻をつかまえていた者で、これは空身からみでないから、走るに走り得ないで、縄付を突きとばすように、後からあわてて気を急ぐ。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わしよりもずつと先に出かけたのであらうが、わし空身からみのことだから、そこで追ひついたのでありました。
夜烏 (新字旧仮名) / 平出修(著)
そして滝本は空身からみでドリヤンにまたがつた——蝉がかまびすしく鳴き立つてゐる森を抜けて河堤に出た。
南風譜 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
つまり、旦那は自分の身上しんしょうをみんな投げ出して、親類の人たちにあとの始末をいいように頼んで、空身からみで生まれ故郷を立ち退くことになったのさ。空身といっても千両ほどの金をもっている。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
空身からみの者もいるが何となく彼には気がさすのだった。足を早めて、年老った百姓のそばへ寄ると、強右衛門は
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
馬は、空身からみになると、なおさら勢いを加えて坂の下へ素ッ飛んで行ってしまうし、城太郎は当然、梢に両手をかけて、宙にぶらんこをしているほかはない。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
木枝にからまれて旗差物を失わば、旗差物も打ち捨てて急げ。要は、今川が本陣の核心へ、真っ向に突き入って、治部大輔じぶのたゆうが首見ることぞ。身軽がよし、空身からみが利ぞ。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「おぬしらの荷は、みなわしが担ってやるぞ。わしのおる限り空身からみも同様じゃ。さあ続いてこい」
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どうせおめおめ空身からみでは長官邸へは帰り難い身でもある。いつか夜が明けかけ、チチチチと鳥の音はしていたが心にも耳にも入らない。そして彼の血眼はふとはしる鹿のごとき影を見た。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ことに、よほど急ぐ飛脚か、世間をかくれて渡る人間でもなければ、滅多に通らない甲州の裏街道——大菩薩だいぼさつから小丹波を越えるというのは、空身からみでも、女には、初めから無理な道なのである。
野槌の百 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
空身からみとなった奔馬は、たちまち、何処ともなく馳け去ってしまう。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「でも、命という物を持ってるから、空身からみとはいえないよ」
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
空身からみの楊志にしてさえ、息がきれた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
向うは駕籠、こっちは空身からみである。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)