空脛からすね)” の例文
次にも又、一人の中年の侍が、捨身になって出て来たが、それは、空脛からすねを蹴られて、一同の中へ刀を抛って、仆れ込んだ。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
最後に空脛からすねを二本、棒のようにどてらの真向うに突っ立てた時は、この娑婆気が最高潮に達した瞬間である。その瞬間に働く気はないかねと来た。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
さも、安心したらしい、しかし、意味ありげな口上——、吉は、立って来て、手拭を盗ッとかぶり、尻をはしょって、空脛からすねを出した男を、闇を透してみつめるように
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
地獄の口のいた中から、水と炎の渦巻を浴びて、黒煙くろけむり空脛からすねに踏んで火の粉を泳いで、背には清葉のまましい母を、胸には捨てた(坊や。)の我児わがこを、大肌脱おおはだぬぎの胴中へ
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
煮えくりかえるような胸をおさえて、空脛からすねを風に吹かせながら、三年町さんねんちょうの通りを歩いて行くと、横丁から小走りに走りだして来た、せんぶりの千太。頭から湯気を立てながら
振り向いてみると、竹杖一本手に持って、空脛からすねこしきりの布子一枚、ひげの中から顔を出しているような男
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三十二銭這入はいっている。白い眼は久留米絣くるめがすりの上からこの蟇口をねらったまま、木綿もめん兵児帯へこおびを乗り越してやっと股倉またぐらへ出た。股倉から下にあるものは空脛からすねばかりだ。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
百々子の部屋の真下になっている石田氏の居住をのぞいてみると、石田氏はワイシャツの着流しで空脛からすねをだし、部屋の積み夜具に腰をかけ、怒ったような顔で煙草を喫っていた。
我が家の楽園 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
二度も三度も折重おりかさなって、り落ちて、しまいには、私がどしんと尻餅をくと、お優さんは肩にすがった手をえたように解いて、色っぽくはだけたつまと、男の空脛からすねが二本、少し離れて
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
百姓庶民は自分たちを遊び飽かせる為に生きている——そういう公達きんだちの頭には、太政入道が空脛からすねの青年時代に、瀕死ひんしの親の医者を迎えるため医師へ行っても来てくれず
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やぶからぼうに働く了簡はないかねと聞かれた時には、何と答えていか、さっぱりわけが分らずに、空脛からすねを突っ張ったまま、馬鹿見たような口を開けて、ぼんやり相手をながめていた。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
色の浅黒い空脛からすね端折はしょって——途中から降られたのだから仕方がない——好みではないが、薩摩下駄さつまげたをびしゃびしゃと引摺ひきずって、番傘のしずくを、剥身屋むきみやの親仁にあやまった処は、まったく、「。」や
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
空脛からすねに、槍一本かつぎ出して、宮本村の武蔵たけぞうと、関ヶ原の空をのぞんで飛び出した時のような壮志が、久しぶりに、近頃、健康になった彼の体にも、よみがえって来たらしいのである。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三平がそっと横へあごを指したので、何かと思って、藤左衛門が振向いてみると、自分たちのむれから五、六間離れた柵のきわに、提灯を消して空脛からすねを抱えながらうずくまっている四、五名の雲助と
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)