稜々りょうりょう)” の例文
てきぱきした実務家の冉有ぜんゆう。温厚の長者閔子騫びんしけん穿鑿せんさく好きな故実家の子夏しか。いささか詭弁派的きべんはてき享受家きょうじゅか宰予さいよ気骨きこつ稜々りょうりょうたる慷慨家こうがいか公良孺こうりょうじゅ
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
しゅの勝久は若年でまだ二十六歳。その下の孤忠の臣たり一代の侠骨鹿之介幸盛は、三十九歳の稜々りょうりょうたるこつがらの持主であった。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
恐れ気もなくいってのける闇太郎に、気骨きこつ稜々りょうりょうたる門倉平馬の気持は、ますますきつけられて、行くらしかった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
年久しく風霜ふうそうと闘うてかわは大部分げ、葉も落ちて、老骨ろうこつ稜々りょうりょうたる大蝦夷松おおえぞまつが唯一つ峰に突立つったって居るのであった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
分明はっきり返事をして、小気味よく小用をたしていた——尤もむずかしい仕事ではない、家のなかの雑用だが——彼は見かけだけは稜々りょうりょうたる男ぶりだった。
そろいも揃って気骨きこつ稜々りょうりょうたる不遇の高材逸足の集合であって、大隈侯等の維新の当時の築地つきじ梁山泊りょうざんぱく知らず
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
この縁談はもうまとまったものと、今までの経験に因って、道学者はしか心得るのに、酒井がその気骨稜々りょうりょうたる姿に似ず、悠然と構えて、煙草の煙を長々と続ける工合が
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それに引かえて主人あるじえ汚れて黒ばめる衣裳を、流石さすがに寒げに着てこそは居ないが、身のやせの知らるる怒り肩は稜々りょうりょうとして、巌骨がんこつ霜を帯びて屹然きつぜんとしてそびゆるが如く
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
要するに肉と云う肉がみんな退却して、骨と云う骨がことごとく吶喊とっかん展開するとでも評したら好かろう。顔の骨だか、骨の顔だか分らないくらいに、稜々りょうりょうたるものである。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私は表面若旦那然たるなりをしてゐても一と皮げば衒気げんき満腹、蛮骨稜々りょうりょう、鼻持のならない野心や情慾が悪臭紛々と漲つてゐる不良青年であつたから、先生のやうな温雅な尊者の前へ出ると
青春物語:02 青春物語 (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「気骨稜々りょうりょうだね。」横沢氏は、にやにや笑って、「見どころあり、かね?」
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
その眼もとも、父太子に似て涼しく澄んでゐたが、それでゐて人品骨柄こつがらは全体として父親とは似てもつかず、あくまで大ぶりで筋骨逞ましく、気骨もそれによくふさつて稜々りょうりょうたるものがあつた。
鸚鵡:『白鳳』第二部 (新字旧仮名) / 神西清(著)
もはや今の私には分からないが、はじめの方で男子の形態を記載したくだりに、「稜々りょうりょうトシテ鋭シ」の句があり、脳髄を説かれた条に、「大脳ハ精神ノ物質的代標タリ」とあるのを、私は忘れずにいた。
呉秀三先生 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
これに由って見るに、楓江は奇骨稜々りょうりょうたる青年にして、ただに詩文を善くしたのみならず武芸にも達していたが慷慨家こうがいかを以て自ら任じ仕官の道を求めなかったので赤貧洗うが如く住所も不定であった。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
しかし是に懲らされて、狐は落されてしまったと見え、それからは、鳶肩えんけん長身、傲骨ごうこつ稜々りょうりょうたる匡衡朝臣も、おとなしくなって、好いお父さんになっていたという話である。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)