瞠目どうもく)” の例文
これは文壇の現象としてはかなり唐突だったので、文人諸家は驚異に近く瞠目どうもくしたし、読者側ではどよめき立って好奇心を動かし続けた。
鶴は病みき (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
実に瞠目どうもくするほど通俗的な何物かで満ちているとすれば、この不思議な秘密と事実を、世界の一流の大作家は見逃がすはずはないのである。
純粋小説論 (新字新仮名) / 横光利一(著)
と一同は重蔵の言葉にたれたように、しばらくは大地に顔を伏せて顫えたままの新九郎に瞠目どうもくしたが、蝶の化身けしんと云ってもいい美しい姿を見て
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
維摩の塑像のごときは我々を瞠目どうもくせしむるに足る小気味のいい傑作で、三月堂の梵天・帝釈(寺伝日光・月光)や広隆寺の釈迦(弥勒?)などと共に
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
ですから丁度能楽をもっとじかに触れ合って見ている感じなのです。私はかかる状態が今なお残る沖縄を、瞠目どうもくして見つめないわけにゆかないのです。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
女は涙を呑みながら、くるりと神父に背を向けたと思うと、毒風どくふうを避ける人のようにさっさと堂外へ去ってしまった。瞠目どうもくした神父を残したまま。………
おしの (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
あらゆる人間に瞠目どうもくさせたい等と頬杖ほおづえついて、うっとり思案してもみるのだが、さて、僕には、何も出来ない。
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
瞠目どうもくするアメリカ人を尻目に、博士は、こんどは電気メスをとって、舷側をぴちぴちごしごしと切り始めた。
学問の豊かなことは、ちょっと叩いてみても、駒井をして瞠目どうもくせしむるものが存在していたということ。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
瞠目どうもくした雪之丞を、お初、ふところ手で、柱にもたれかかるようにしたまま、冷たく笑って眺め下ろした。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
実に、怪奇な栄光に続いて、法水を瞠目どうもくせしめた死体現象がもう一つあったのだ。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
いかに瞠目どうもくしてはじめて「政治」を彼は凝視したか! そして歓喜したか!
福沢諭吉 (新字新仮名) / 服部之総(著)
瞠目どうもくすべき悪夢の中の妖異よういであった。七つの顔が、巨大な花と笑っていた。
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
これにお京のお諸礼式は、長屋に過ぎて、瞠目どうもく価値あたいした。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
世間のものを瞠目どうもくさせたのだった。
ときあまり疑いつかれていた娘の姿を、まともから見上げて、紫の頭巾につつまれたそのきわだった目鼻立ちの美しさに、また瞠目どうもくを新たにしました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すべからく「日本の眼」でその内容を整理すべきである。これを成せば「世界の眼」が瞠目どうもくしてこれを眺めるであろう。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
ことにこの四、五年は我々を瞠目どうもくせしめるような突破を年ごとに見せている。
若者は、雪之丞の瞠目どうもくを、暗がりの中で感じたか、カラカラと笑って
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
正成の今日あることは、今さら瞠目どうもくするにはあたらなかった。先に河内へ密使にやった右馬介から、正成の心は、すでに聞かされていたことだった。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、瞠目どうもくした。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
翌朝、起き出てみると、総曲輪そうぐるわとりでづくりらしいが、内の殿楼、庭園の数寄すきなど、夜前の瞠目どうもく以上だった。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかしこの黒奴については、秀吉はそう瞠目どうもくもしなかった。安土の城内で度々見かけていたし、また宣教師バテレンからすすめたものということも知っていたからである。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
巡視の将校は、強右衛門のすがたを、今さらのように、じっと瞠目どうもくして、頭の先から足の先まで見て
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(ここ一ヵ月も前から何を工事しておられるのか?)と、前からいぶかっていた諸将は、その谷内がいつのまにか一大産業工場と化しているのを見てみな瞠目どうもくした。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
山王峠の紅葉には、瞠目どうもくした。特筆に値するものだが、さて紅葉なんてものは、どうにもめようがない。わが国の先輩たちは自然への讃辞を過剰にいい尽してしまっている。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
不意に手を離されたのと、意外なおどろきにうたれたのとで、万吉はヨロリと後ろへ足を踏み乱しながら、窓の細目へ瞠目どうもくした。と、白い手がなよやかに動いて、雨戸の障子を二尺ばかり押しけた。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)