眼覚めざ)” の例文
旧字:眼覺
しかし生きそして愛する本能が眼覚めざめた今となっては、彼女はどうすることもできなかった。その本能のほうが彼女より強かった。
「お眼覚めざめかな。戸部氏もあの通り殊のほかお腹立ちの模様だから、ちょっと謝りなさい。あやまって改めてわれら一同へ年賀の礼をなされたがよかろう」
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そうして猪太郎は十歳とおとなったがその体の大きさは十八、九歳の少年よりももっと大きくもありたくましくもあり、その行動の敏活とその腕力の強さとは真に眼覚めざましいものであった。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
みなべらべらしゃべってしまった。それがすべて翌朝暗号電報となって特設の経路からベルリンへ飛ぶ。当時のマタ・アリの活動は、まことに眼覚めざましかった。たださえパリーだ。戦時である。
戦雲を駆る女怪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
けれどもかくの如き平安によって保たれる人も社会も災いである。若し彼が或る動機から、猛然としてもとの自己に眼覚めざめる程緊張したならばその時彼は本能的生活の圏内に帰還しているのだ。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
あだあ、かあちゃん、お眼覚めざが無いじゃあぼうは厭あだあ。アハハハハ。
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
来太が覚めると、五人は夏蜜柑なつみかんをむいて「はいお眼覚めざです」と差し出した、来太はまずその一房を取っててのひらへ果汁を絞り、両手で受けて顔をごしごし擦ると、紙巻を取り出してうまそうに一服した。
花咲かぬリラ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
今朝けさのちょっと無気味だった眼覚めざめを心のうちにまざまざとよみがえらせた。
旅の絵 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
栖方の本心が眼覚めざめて来ている。梶はそう思って、「ふむ」と云った。
微笑 (新字新仮名) / 横光利一(著)
戦争を攻撃するのにもっとも熱烈だったある人々も、祖国にたいする自負心と熱情とが、突然の激しさで眼覚めざめてくるのを感じていた。
半ばは彼女の気に入るためにであったが、また一方には、眼覚めざめてきた芸術的好奇心が、更新してる芸術を見てひきつけられたからだった。
長く残存していて今突然眼覚めざめてきたその敵意の理由が、彼らにはわからなかったし、ことにクリストフにはわからなかった。
遠くで、しば小屋の中にうとうとしてる収穫の番人らが、眼覚めざめてることを盗人に知らせんがため、時々小銃を打っていた。
少し大きくなって、批判力が眼覚めざめかけたころでさえ彼は、信仰を飾る通俗な伝説に心を向けるのが好きだった。
その力はどこから彼に来たのか?……それこそ、疲れきって眠っていたのが春の渓流のように満ちあふれて眼覚めざめてくる、民族の復活の神秘である……。
自分の民族の元気を眼覚めざめさせんがためには、その最初の犠牲者となることを喜んで承諾するに違いなかった。
それは彼女らの生涯しょうがい中の一瞬にすぎないし、快楽の最初の眼覚めざめにすぎなくて、凋落ちょうらくはほど近い。しかし彼女らは少なくとも、うるわしい時を生きたのである。
二人はその場で争いつづけ、たがいに息が顔にかかっていた。彼は考えめぐらすひまがなかった。相手の眼の中に殺意を認めた。そして彼のうちにも殺意が眼覚めざめた。
それは、優雅な手でばかり事物に触れることをする詩人らが、青春期の不安、若い天使のもだえ、年少の肉と心との中における愛欲の眼覚めざめ、と名づける所のものであった。
ドールとポンタルリエとの間の蒼茫そうぼうたる平野の上の赤いあけぼの眼覚めざめくる田野の光景、大地から上ってくる太陽——パリーの街路とほこりだらけの人家と濃い煤煙ばいえんとの牢獄ろうごくから
彼女はなお——最後の喜びと言えないまでも——心が元気づいてくる若々しい愛情の最後の動きを、愛や幸福の希望などにたいする力の捨鉢すてばち眼覚めざめを、経験したのだった。
潮の干満のように一定の時期において、ある種の鳥のうちに突然不可抗的に眼覚めざめてくるあの不思議な力を、彼は自分のうちに感じていた——それは大移住の本能であった。
もうのろわしい生の跡方もなかった。——しかし眼覚めざめはいっそう息苦しいものだった。
何かある楽しげな気がかりらしい色が浮かんでるその若々しい顔は、眼覚めざめくる春——春の覚醒——の不安ななぞに包まれていた。彼女はジャックリーヌ・ランジェーという名だった。
彼女は手製の料理を、非常なにおいが近所にあふれて石をも眼覚めざめさすほどの南欧式な料理を、一さらこしらえようと考えたのだった。彼女は旅館のでっぷり太った主婦と仲がよかった。
もうその熱情がふたたび眼覚めざめないのではあるまいかと、真面目まじめに信じていた。