相対あひたい)” の例文
旧字:相對
彼の新なる悔は切にまつはるも、いたづらに凍えて水を得たるにおなじかるこのふたつの者の、相対あひたいして相拯あひすくふ能はざる苦艱くげんを添ふるに過ぎざるをや。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
前面ぜんめん大手おほて彼方かなたに、城址しろあと天守てんしゆが、くもれた蒼空あをぞら群山ぐんざんいて、すつくとつ……飛騨山ひださんさやはらつたやりだけ絶頂ぜつちやうと、十里じふり遠近をちこち相対あひたいして
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
社会と自己とを相対あひたいさせる形になつて居るのである。かういふ心境に当つて、社会劇が出来るのである。
社会劇と印象派 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
代助は三千代と相対あひたいづくで、自分等じぶんら二人ふたりあひだをあれ以上にうかする勇気をたなかつたと同時に、三千代のために、なにかしなくては居られなくなつたのである。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
果して人の入来いりきて、夕餉ゆふげまうけすとて少時しばしまぎらされし後、二人はふべからざるわびしき無言の中に相対あひたいするのみなりしを、荒尾は始て高くしはぶきつ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
私は病気になつて始めて死といふものと相対あひたいした。今までにも死とは度々面したと思つてゐるが、それは空想で、本当の死といふものはそんなものではないといふことが始めて分つた。
心の階段 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
おのおの静に窓前の竹の清韻せいいんを聴きて相対あひたいせる座敷の一間ひとま奥に、あるじ乾魚ひものの如き親仁おやぢの黄なるひげを長くはやしたるが、兀然こつぜんとしてひとり盤をみがきゐる傍に通りて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)