相好さうがう)” の例文
「さよか、先方むかふがそない言うてるのんやと——」鴈治郎の顔は見る/\相好さうがうが崩れた。「会うだけなら一遍会うても構やへんな。」
併しながら四十九重しじふくぢうの宝宮の内院ないゐんに現れた尊者の相好さうがうは、あの夕、近々と目に見た俤びとの姿を、心にめて描き現したばかりであつた。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
私はロチスター氏の微笑ほゝゑみを見た。彼の嚴しい相好さうがうやはらいだ。彼の眼は輝やかしく柔和になり、その輝きは人の心を探るやうに、また温厚になつた。
「顏の紐のゆるんだのが、路地を入つて來ると思ふと、それが外ならぬ八五郎さ。成程そんな面白い相好さうがうで歩く人間は、日本中にも滅多にはねえ筈だ」
傍にゐて、すつかり相好さうがうの変つた蒔の寝顔を眺め乍ら、これが肉親の祖母であつたらどんな気がするだらうと思つた。すると、突然、悲しさがこみ上げて来た。
鳥羽家の子供 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
創立以来勤続三十年といふ漢文の老教師は、癖になつてゐる鉄縁の老眼鏡を気忙きぜはしく耳にはさんだりはづしたりしながら、相好さうがうくづした笑顔で愛弟子まなでしの成功を自慢した。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
二人はえんに腰を掛けて、草鞋わらぢひもき始めた。五郎兵衛はそれを見てゐるうちに、再び驚いた。かみをおろして相好さうがうは変つてゐても、大塩親子だと分かつたからである。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
併し孫四郎の冷たい表情の裏には同じ相好さうがうの運命の顔があるやうな気がした。
もう酒の香が鼻をつくやうに相好さうがうを崩して應じた。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
古い佛像に、眼を三つ具へた相好さうがうのものがある。
桃の雫 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
ひげそゝげたる相好さうがう
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
着換きがへリンの音で人々は散つてしまつた。私が再び彼を見かけたのは晩餐後であつた。その時には彼はすつかりくつろいでゐる樣子だつた。しかし私は前よりももつと彼の相好さうがうが好きになれなかつた。
庚申塚かうしんづかから少し手前、黒木長者のいかめしい土塀の外に、五六本の雜木が繁つて、その中に、一基の地藏尊、鼻も耳も缺け乍ら、慈眼を垂れた、まことに目出度き相好さうがうの佛樣が祀られて居りました。
何時見ても紫微内相は、微塵みじん曇りのないまどかな相好さうがうである。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
愛相あいそを言ふ人があると、急に顔の相好さうがうを崩して
圓三郎はその時のことを思ひ出したか、相好さうがうを崩して話すのでした。
くびれて死んだものなら、顏がむくんで、相好さうがうが變つてゐなきやなりません。それに口を堅く結んだまゝで、その口中に何んの變りもなく、喉佛も無事だし、繩の當つた跡も大したことはありません」
笹野新三郎の記憶にはこの首の相好さうがうが燒き付くやうに、まざ/\と殘つて居ります、忘れもしないそれは、今日鈴ヶ森の處刑場しおきばで打ち落した首の一つ、死に際まで生の執着しふぢやくにもがき拔いて、一番みにく
ガラツ八は少し相好さうがうを崩して長いあごを撫でます。
相好さうがうを崩してゲラゲラと笑つて居るのです。