目礼もくれい)” の例文
旧字:目禮
しかし、いまの一手で満足したものか、千葉周作(と思える人物)は、こちらへ軽く目礼もくれいをし白川久三郎をれて、道場から出ていった。
花も刀も (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
左右からせきたてて、小船の板子いたごをしいた死の伊那丸いなまるをひかえさせた。そして床几しょうぎにかけた梅雪ばいせつ目礼もくれいをしてひきさがる。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
女は慇懃いんぎん会釈えしゃくをした。貧しい身なりにもかかわらず、これだけはちゃんとい上げた笄髷こうがいまげの頭を下げたのである。神父は微笑ほほえんだ眼に目礼もくれいした。
おしの (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ひつぎの門を出ようとする間際まぎわけつけた余が、門側もんがわたたずんで、葬列の通過を待つべく余儀なくされた時、余と池辺君とははしなく目礼もくれいを取り換わしたのである。
三山居士 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私は母から届けるやう頼まれた仕立ものを差出します。その人は目礼もくれいして受取つて傍の机の上に置きます。
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
品川堀を渡って、展望台の方へ行くと、下の畑で鉢巻はちまきをした禿頭はげじいさんが堆肥つくておけかついで、よめか娘か一人の女と若い男と三人して麦蒔むぎまきをして居る。爺さんは桶をろし、鉢巻をとって、目礼もくれいした。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
馬上にかえると、道誉は高い所から、もいちど高氏へ目礼もくれいをこぼして、黄母衣組以下をひきつれ、二ノ橋、一ノ橋と大宮大路を五条の方へ去って行った。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
帰る日は立つ修善寺しゅぜんじも雨、着く東京も雨であった。たすけられて汽車を下りるときわざわざ出迎えてくれた人の顔は半分も眼にらなかった。目礼もくれいをする事のできたのはそのうちの二三に過ぎなかった。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
娘が目礼もくれいするおもざしをジッと見て、駕の戸をめる。そこへ、また四、五人の家臣も追いついて来て、男女入り交じった行列は、再び、道を急ぎだします。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ガサガサとをわけて、男がさきに立ったので、三つの網代笠あじろがさ晴季はるすえ目礼もくれいをしてついていった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、目礼もくれいして、武士たちは、かばの林をぬけてしまった。とりでを見張みは番士ばんしたちである。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)