生得しやうとく)” の例文
生得しやうとく聰明な人だけに、老臣等に掣肘せいちゆうせられずに、獨力で國政を取りさばいて見たかつた。それには手足のやうに自由に使はれる侍が欲しい。
栗山大膳 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
けんにて住居ぢうきよなし此近邊このきんぺん大身代おほしんだいなり主は入聟いりむこにてしやう三郎と云今年ことし六十さいつまは此家のむすめにて名をおつねび四十さいなれども生得しやうとく派手はでなる事を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
そこでパシエンカは極力娘の苦情を抑へて、夫婦の間の平和と安穏とを謀つてゐる。パシエンカは生得しやうとく人の不和を平気で見てゐることが出来ない。
大方は、柔順で、愛らしくもあつた。私は、彼等は生得しやうとくのしとやかさや、自重心や、優れた才能を持つてゐるといふ實例を、少なからず發見した。
あゝ生得しやうとくさちある靈よ、味はゝずして知るによしなき甘さをば、永遠とこしへ生命いのちの光によりてあぢはふ者よ 三七—三九
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
八五郎は文句を言ひ乍らも、生得しやうとくの糞力を出して、血の附いた女臼の方を、二階の窓際まで運んで來ました。
銭形平次捕物控:260 女臼 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
生得しやうとく変化へんげある獣ぢやて、あの位の用を勤めるのは、何でもござらぬ。」
芋粥 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
いやもう生得しやうとく大嫌だいきらひきらひといふより恐怖こわいのでな。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
生得しやうとくひづみ悉皆消散せる
深夜の道士 (新字旧仮名) / 富永太郎(著)
黄門光圀卿くわうもんみつくにきやう明察めいさつ見露みあらはし玉ひお手討に相成あひなりける然るに紋太夫に一人のせがれあり名を大膳だいぜんと呼べり親紋太夫の氣を受繼うけつぎてや生得しやうとく不敵ふてき曲者くせものなれば一家中に是を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
奧さんは生得しやうとく寢坊ではあるが、これもまさか旦那が講義の時間に遲れても好いとおもふ程、のん氣ではない。
半日 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
本當の佛蘭西人生來じんせいらいの懷疑心をすつかり表はして、ロチスター氏に、「生得しやうとくの譃つき」(un vrai menteur)だときめつけて、自分は彼の「お伽噺」は
「いや、千本殿は見かけに寄らぬ大酒だが、私は身體に似氣なく生得しやうとく下戸げこで、ほんの猪口ちよこで二三杯といふところだ、——尤も眠氣を拂ふために、夜つぴて濃い茶を呑んで居た」
見て安間平左衞門は生得しやうとく大膽不敵だいたんふてき曲者くせものなれば主人の答を齒痒はがゆきことに思何とか口を利たき體に控居たり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
生得しやうとくの大きな聲でわめき散らすと、さしもに執拗しつあうな野次馬も、嗅ぎわけられる恐ろしさから逃れようとしたか、一人減り、二人歸り、人垣は後ろの方からゾロゾロと崩れて行くのでした。
なる程、だが冷淡な國民的厚顏と純粹な生得しやうとくの誇(傲慢)に對してはあなたに匹敵ひつてきするものはありませんね。もうソーンフィールドの傍に來ましたよ。宜しかつたら今日は私と一緒に食事を
生得しやうとく下戸げこと、戒行の堅固な處と、氣の強い處と、三つのかね合故あひゆゑ、目をまはさずにすみ申候、此三つの内が一つ闕候かけさふらうても目をまはす怪我にて、目をまはす程にては、療治も二百日餘りかゝ可申まうすべく
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
馬といふものは、驚き易いものだが、生得しやうとく泳ぎは知つて居る。
跡腹の病める、あらゆるさいはひ生得しやうとく好かないのである。
妄想 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)