生半可なまはんか)” の例文
汽車そのものが文明的の交通機関であるからと云って、停車場の風致までを生半可なまはんかな東京風などに作ろうとするのは考えものである。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
自分の襟がみを吊るしあげている逞しい腕を、生半可なまはんか引掻ひっかきなどしたので、土匪どひは、この小さい者にも疑いぶかい眼を光らした。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そういう生半可なまはんかのものを引連れて、吉良邸へ乗りこむということは仇討の美名のもとに、一種の悪事を行うようなものではないか。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
明治時代のさる小説家が生半可なまはんかで、彼の小説中に質屋の倉庫に提灯を持って入ったと書いて識者の笑いを招いた事もある。
亡び行く江戸趣味 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
生半可なまはんかに気が利いたり、学問があったりするのは、こういう場合には、かえってよくないものじゃ。ことに、次郎にはやさしいのが何よりじゃでのう。」
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
生半可なまはんかの家へ押し込むに、それほど人数をそろえるわけもねえでしょう? 実は旦那がたがいらしってから、いつもの勘で、考えていただきてえと思いやして——
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
私も、いったんあなたの世話を引受けた以上、あなたにも、生半可なまはんかな気持でいてもらいたくないのです。立派に更生の道をたどる、という覚悟のほどを見せてもらいたいのです。
人間失格 (新字新仮名) / 太宰治(著)
そのまた旦那だんな浪花節なにわぶしのほかには、洋楽洋画はもちろん歌舞伎かぶきや日本の音曲にすら全然鉄聾かなつんぼの低級なのが多く、抱えが生半可なまはんかに本なぞ読むのは、この道場の禁物であり、ひところ流行はやった救世軍の
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
……失礼だがきみの、身分を思って……生半可なまはんか横啣よこぐわえで、償いの多少に依りさえすればこんな事はきっと出来ると……二度目にあの塚へ、きみが姿を見せた時から、そう思った。悪心でそう思った。
「あんな、生命いのちの火がとぼり切れているキリギリスなんぞに、生半可なまはんかやさしい言葉をかけると、かえって思いが取ッつきますぜ」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それは貴殿の無学のせいだ。」と日頃の百右衛門の思い上った横着振りに対する鬱憤うっぷんもあり、みつくような口調で言って、「とかく生半可なまはんか物識ものしりに限って世に不思議なし、化物なし、 ...
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
おん身は、生半可なまはんかな知識があるので、かえって仏の御座みざの一歩まえにこだわって、ずっと、安心の座にお着座ができぬ。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
誰もぼくに生半可なまはんかな関心なぞ持っていて貰いたくありません。東京の友達だって、おふくろだって貴方だってそうです。お便り下さい。それよりお会いしたい。大ウソ。中江種一。太宰さん。
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
生半可なまはんか、彼が世上慾に目をひらいて、先祖代々からの庄屋づとめや百姓仕事を嫌いだしたら、かえって、わしの仕込んだ道も、史家しけにとってはあだになる
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
相手の知識を、てんとして無視し去ってしまう場合に、無智が絶対につよい。生半可なまはんかな有智は誇る無智へ向って、ほどこすにすべがないという恰好になってしまう。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
修養にも幾年月の苦行をえてするのであるが、これも到底、生半可なまはんかでは、いざという大事なときに、鎌田新介のようなしゅうを演じないとはなかなか云いきれない。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それも生半可なまはんか、ハイなどと答えて、即座に書かなければまだよかったろうに、正直一途に小さな智恵をしぼって書いてみせた為、それが又、よけいに悪い結果になった。
義なく、節なく、離反りはん常なく、そのくせ、生半可なまはんかな武力のある奴。——ゆく末、国家のためにならぬから、殺してくれと、家兄玄徳のところへ、曹操から依頼がきている。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……だが、このボロ法衣ごろも、そこの茶の木には干しにくいし、この桃の樹は花ざかりだし、わしが生半可なまはんか、風流を解する男だけに、干し場に困ったよ。お通さん、物干し竿あるか
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
生半可なまはんか、武蔵には、それがえるだけに、手も、足も出ない心地がしてしまうのだった。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
生半可なまはんか、ひとの心や気もちのうごきに敏感になったから、かえって、こっちの手がおくれるのだ。日観なども、眼をとじて一撃をり落せば、実はもろ土偶でくみたいなものかも知れないのだ
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
生半可なまはんか、正直に、善良にと、量見を良くしようとするほど、却って運命ッて奴は、人をなぶったり皮肉ったり、ベソを掻くようなことばかり仕向けて来やがって、ろくな道はひらけて来やしねえ。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
生半可なまはんか雲谷うんこくの画風がどうの、牧谿がどうの、友松がいつの時代のと、考証癖が手伝ったり、江戸時代の画史画論の雑書の観念などが交じるので、よけいそこが混雑してしまうのではあるまいか。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
生半可なまはんかな人物を仲に介するほどならないほうがよい
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
生半可なまはんかな智恵や目がさまたげるからである。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)