あまん)” の例文
富有な旦那の冥利みょうりとして他人の書画会のためには千円からの金を棄てても自分は乞丐こじき画師の仲間となるのをあまんじなかったのであろう。
あまんじて爰に起臥せんとす、而して風雨の外より犯す時、雷電の上より襲ふ時、慄然として恐怖するを以て自らの運命とあきらめんとす。
人生に相渉るとは何の謂ぞ (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
吾人は寂寞せきばく閑雅なる広重の江戸名所においておのずから質素の生活にあまんじたる太平の一士人いちしじん悠々ゆうゆうとして狂歌俳諧の天地に遊びし風懐ふうかいに接し
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
もとは単純に指令に服従して、怖しい神の妻たることにあまんじたものが、のちにはこれを避けまたはのがれようとしたことが明らかに見えるのである。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ゆゑに愛のためにせむか、他に与へらるゝものは、難といへども、苦といへども、喜んで、あまんじて、これをく。
愛と婚姻 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
文学者に地理書の編輯! 渠は自分が地理の趣味を有っているからと称して進んでこれに従事しているが、内心これにあまんじておらぬことは言うまでもない。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
の横井、佐久間、もしくは大久保、木戸の徒をしてこの際に処せしむ、彼ら如何に迫切なる死地に陥るも、みずからあまんじて刺客列伝の材料とならんや。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
彼常に「不感無覚」を以て称せらる。世人ややもすれば、この語を誤解していはく、高踏一派の徒、あまんじて感情を犠牲とす。これ既に芸術の第一義を没却したるものなり。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
一度ひるがえりて宇宙の大道に従い、手足を労し額に汗せば、天は彼をも見捨てざるなり、貧は運命にあらざれば我ら手をつかねて決してこれにあまんずべきにあらず、働けよ、働けよ
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
かみさんには隣人のために縁の下の力持ちをしてあまんじているようなところがあった。
日日の麺麭 (新字新仮名) / 小山清(著)
主将の意思は必ずしもうでは無かったのであろうが、敵を愛することを知らぬ部下の者共は、の異国の捕虜に対してはなはだしき侮辱と虐待を加えたので、彼等はあまんじて仕事に着かなかった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それなら万物の霊を辞職するかと思うと、どう致して死んでも放しそうにしない。このくらい公然と矛盾をして平気でいられれば愛嬌あいきょうになる。愛嬌になる代りには馬鹿をもってあまんじなくてはならん。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
貧なればよく質素にあまんずといへども僅少きんしょうの利を得ればただちに浪費するへきある事なり。常に中庸をとうとび極端にする事を恐るる道徳観をする事なり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
しかれどもその敢て第二流を以て、みずからあまんぜざる大抱負に至りては、また欽ずべきものなくんばあらず。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)