物心ものごころ)” の例文
ぼくは、そうきくと、物心ものごころのつかない幼時ようじのことだけれど、なんとなく、いじらしいあにのすがたがかんで、かなしくなるのです。
兄の声 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そもそも私の酒癖しゅへきは、年齢の次第に成長するにしたがっのみ覚え、飲慣れたとうでなくして、うまれたまゝ物心ものごころの出来た時から自然に数寄すきでした。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
物心ものごころついた小娘時代こむすめじだいから三十四さい歿みまかるまでの、わたくし生涯しょうがいおこった事柄ことがら細大さいだいれなく、ここで復習おさらいをさせられたのでした。
物心ものごころがついて以来と云うもの主人はおおいにあばたについて心配し出して、あらゆる手段を尽してこの醜態をつぶそうとした。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
僕はこの忠八から家庭の教育を受けたようなものである。物心ものごころを覚えてからは忠八が始終附き添っていた。
村一番早慶戦 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
おっとというのは石工いしくであったが、このへんのたいていの労働者ろうどうしゃと同様パリへ仕事に行っていて、わたしが物心ものごころついてこのかた、つい一度も帰って来たことはなかった。
「俺、棄児すてごだからな、物心ものごころを知らねえうちに打棄うっちゃられただから、どこで生れたか知らねえ」
物心ものごころづいてからは、他人に育てられましたのよ、だから、うみの母にも逢わずに死なせ、その実母ひとの父親——おじいさんですわねえ、その人は、あたしが見たい、一目逢いたいと
江木欣々女史 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
おまえが、まだ物心ものごころのつかないころだったよ。このむらに、おつるさんといって、孝行こうこうむすめさんがあった。
万の死 (新字新仮名) / 小川未明(著)
与八という名もその時につけられたのですが、物心ものごころを覚えた頃になって、村の子供に「拾いっ子、拾いっ子」と言っていじめられるのをつらがって、この水車小屋へばかり遊びに来ました。
ねこは、かれまれるまえの、ははねこの生活せいかつることはできなかったけれど、物心ものごころがつくと宿やどなしのであって、方々ほうぼうわれ、人間にんげんからいじめつづけられたのでした。
どこかに生きながら (新字新仮名) / 小川未明(著)