てる)” の例文
「石川主殿とのも様の娘——おてるさんというたかの——書家の萩原秋巌はぎわらしゅうがん様の所で見かけたが、よい娘じゃ、学問がようできる」
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この年の頃になって、媒人なこうど表坊主おもてぼうず大須おおすというもののむすめてるめとれと勧めた。「武鑑」を検するに、慶応二年に勤めていたこの氏の表坊主父子がある。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
うちでもおてるさんが心配して居るらしいですわね、畑尾さんの所へ巴里パリイから来た手紙が余り大層に書いてあつたらしいですわね、さうだもんだから。』
帰つてから (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
翌年に相成りようやく蟄居がりましたなれども、う五十の坂を越して居ります善右衞門、大きに気力も衰え、娘おてると云うがございまして年十九に成りますから
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
なんという都会ふうのことばだろう。石黒先生はこんなふうにはよばなかった。先生は、生徒の名を知りすぎていたから、「げんやい読め」とか、「てるン書け」とかいったのである。
(新字新仮名) / 新美南吉(著)
当日の生贄いけにえとなった例の女(後で判明したが、彼女はおてるという二十二歳になる料理屋の女で、その日はこの向井湯の近所に住む伯母の所を訪ねて来た者であった)の肉体に魅力みりょくを感じ
電気風呂の怪死事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「おてる。すっかり見ちがえてしまったよ。」
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
貞固は妻てると六歳になるむすめりゅうとを連れて来て、百本ぐいの側につながせた舟の中にのこして置いて、独り上陸したのである。さて差当り保と同居するつもりだといった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
女の子の二人は元園町へ遊びに行つた。送つて行つたひいづは帰つて来るとまたぐ藤島さんへ行くみつと、水道橋の停車ぢやうまで一緒に行つた。天野さんが来てそれからおてるさんが来た。
六日間:(日記) (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
てるさんは向ひの仏師屋ぶつしやの子で、私より二つの歳上としうへでしたが、背丈は私の方が高いのでした。おはるさんはその人のねえさんでした。隣の藍玉屋あゐだまやには、よりさんと云ふ子がありました。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)